タイワンシジミ類  調査ガイド

Corbicula fluminea

 

園原 哲司(向上高等学校 生物部)

 

(1)タイワンシジミ類の見分け方

 中国や台湾原産のタイワンシジミ種群は、在来種のマシジミ(Corbicula leana )によく似た淡水産の二枚貝です。北海道を除く全都府県に外来のタイワンシジミ種群が生息していることが、20089月の時点で確認されました。しかし十分な同定がされずに、タイワンシジミがマシジミと誤同定されていることも少なくありません。

  日本で見られるタイワンシジミ種群には大別すると、殻内面が紫色でマシジミとよく似ている濃色型と、殻内面が乳白色で、側歯(蝶番の横の部分)が紫色に染まるカネツケシジミ型(Corbicula fluminea f. insularis)の2タイプがあります。カネツケシジミはすぐに区別がつきますが、内面が紫色の濃色型は、専門家でもマシジミとの区別の難しい個体が少なくありません。

 あるいは、在来のマシジミは東アジアに広く分布していて変異の多い、タイワンシジミとマシジミをどちらも含んだ大きな種群(区別の難しい近縁種の集まり)の中で、日本に分布するひとつの分類群であり、野生化したタイワンシジミ類は国外の多様な地域から来ているため、全体として日本のマシジミより幅広い変異を持っているのかもしれません。遺伝的な違いだけでなく水質、底質により殻表面や内面の色斑には多くのバリエーションがあることで、同定が難しくなっている面もあります。一般に幼貝の時には淡色で、長後や泥底では黒紫色が強くなるようです。

タイワンシジミ種群の特徴として、以下の点が上げられています。

※日本産淡水貝類図鑑 A(増田修・内田りゅう:ピーシーズ)p206 参照

 

 

(2)タイワンシジミ類が生息している場所 

 タイワンシジミ類は都市公園の水路など意外に身近に生息しています。しかし、普通のひとには見つけるのが難しかったり、シジミの空殻があることに気づいても、それ以上探索されないことも少なくありません。

 神奈川県の相模川流域で、タイワンシジミ類が生息している場所を紹介します。基本的に水底の砂礫の移動がそれほどなく、かつ比較的一定した水流が恒にある場所に多いようですが、砂礫底のワンドにも大発生することがあります。泥深く水の流れのない場所にはあまりいないようです。

 河川や水路の岸際を肉眼や双眼鏡で観察し、シジミの空殻を探すと比較的容易にタイワンシジミ類を見つけることができます。シジミの採集、分布調査をするときには、3〜5ミリのふるいを用いて底質の砂礫を調べて生きた貝を探します。

(3)タイワンシジミ類の分布を広げないために

もともとタイワンシジミ類は食用の輸入シジミとして国内に持ち込まれたものが、畜養(販売前の在庫のほか、国内の河川や湖沼にいったん撒いて再度採取すれば国産として認められていた)や廃棄などで野生化したと考えられています。専門家は、タイワンシジミ種群が全国的に分布を広げていることから、家庭での砂出しのときに稚貝が流出したケースが多いものと考えています。しかし、いったん野生化したものがひとの手で分布をひろげることも起きています。

神奈川県内の現地調査から、ホタルの幼虫放流に伴い、カワニナとともにタイワンシジミ類が外来種とは知らずに放流されていた事例が複数判明しました。また、タイワンシジミ類を在来種のマシジミと思い込んで、自然を豊かにしようとして広範囲に放流していた事例もありました。ここで問題なのは、ホタル放流や自然の再生といった自然保護活動に伴って、外来種とは知らずにタイワンシジミ類が分布を拡大していることです。メダカと同じように、カワニナも水系ごとに異なる遺伝的特徴をもっており、生息水系外に放流することは控えるべきです。ましてや、外来種の分布拡大には特に注意を払わなければなりません。ここで厄介なのは、同じ水系、近くの水路からカワニナを採集して放流するといった注意を払っても、余程注意深く見なければ見つからないほど小さなタイワンシジミ類の幼貝(二枚貝の形をしている)は排除できないということです。見慣れている者でも、幼貝がいるものと意識して探さなければ見つけることは困難です。粘着性の糸を持つタイワンシジミ類の幼貝は、カワニナにも水草、小石にも付着しています。

さらには、タイワンシジミ種群をマシジミと区別する必要はないと考え、典型的なタイワンシジミとされているタイプを積極的に養殖して殖やそうという動きもあり、在来種のマシジミの生息をさらに狭めることが懸念されます。

雌雄同体のこのシジミは、一個体でも水系に侵入すれば爆発的に繁殖してしまう危険性を持っています。動植物のみならず、石や水の移動は、私たちの想像を超える事態を惹き起こしかねません。また他の二枚貝と違って卵胎生なので上流の小さな水路でも繁殖します.

 

  親シジミに付着しているシジミ幼貝      粘着糸で親貝から下がる幼貝

 

・川遊びで網や長靴に幼貝が付着することもあります。川遊びや釣りのあと、目視で長靴や道具に付着している生物を取り除きましょう。次に使うまでに、道具を完全に乾燥するか、消毒しましょう。

・親貝を持ち帰って水の中で生かしておくと(シジミの砂出しと同じ)、幼貝を産出することがあります。捨てた水と共に、幼貝が排水路を通って水路、河川の下流側に分布を広げる危険性があります。シジミを持ち帰って飼育したり、放流することはやめましょう。

・後述の通り雄性発生により、親貝を持ち帰って水の中で生かしておくと精子を放出し、下流のマシジミの子孫がタイワンシジミ類に置き換わってしまう現象が発生する可能性があります。

・まだ確認されていませんが、魚に飲み込まれたシジミが消化管を通過し、糞と共に生きたまま排泄される可能性もあります。捕まえた魚を他の河川に放流すると、その魚以外の生物を移動させてしまう危険性があることを認識しましょう。

 

 

 

 

(4)生態系への影響

 在来のマシジミと外来のタイワンシジミ類は近縁種で交雑?の危険性があります、マシジミやタイワンシジミ類は生物の中では珍しく、卵が発生するときに卵側の核が捨てられ、精子側の核の遺伝情報のみに置き換えられます(雄性発生)。このときミトコンドリアなど核外の遺伝子は母方のもののみが残るようです。

 こうした特殊な繁殖様式のために、タイワンシジミ類が水中で放出する大量の精子をマシジミが吸い込み、その精子で受精すると、マシジミから生まれるシジミはほとんどタイワンシジミ類の形質のみを受け継ぐことになります(正確には形質の大部分を決める核のDNAはタイワンシジミ類そのもので,ミトコンドリアDNAはマシジミ)。マシジミの生息地にタイワンシジミ類が侵入すると、数年でマシジミが消失し、タイワンシジミ類に置換してしまう事例が報告されています。こうしたメカニズムで、タイワンシジミ類が在来種マシジミの繁殖・生存を抑制して、絶滅に追いやる危険性があります。 前述のように、マシジミとタイワンシジミが形態のみで識別困難であり、さらにDNA分析による種判別法も確立されていないことが、いっそう問題を複雑にしています。

  生存可能な溶存酸素量、塩分耐性等,在来のマシジミとタイワンシジミ類では生態的な特性が違う可能性があります。分布拡大能力の高いタイワンシジミが底質を覆い尽くすほど高密度に繁殖し、他の生物の生存を脅かし、大量斃死すれば悪臭を放ち、水質を悪化させます。北米では、タイワンシジミは「ペスト種」と呼ばれて恐れられています。電力施設の冷却水のパイプを詰まらせたり、大量繁殖で河床が上がってしまい船舶の航行を妨げた事例もあるそうです。

 また、タイワンシジミ類そのものだけでなく、食材として輸入、流通している外国産シジミに随伴して国内に持ち込まれる他の生物にも注意しなければなりません。特定外来生物のカワヒバリガイ(中国原産)は、輸入シジミに混入して日本国内に侵入したものと考えられています。

  タイワンシジミは、外来種としては「要注意外来生物」に指定されています。特定外来生物には指定されてはいませんが、私たちの身近にあって最も注意すべき外来生物のひとつであると思います。

 

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(試作中のタイワンシジミホームページです。)
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