偶蹄類の口蹄疫の分布拡大予報

2010613日(616日改訂)

 

緊急に情報が必要であり,病原体の運ばれ方もわからないときには,詳細な予測モデルを構築しパラメータを決定するのでなく,とりあえずの近似としてこれまで知られている外来生物の分布拡大パターンを適用するのがよいと思われます.

ここでは,ほぼ全国に分布拡大した外来昆虫のうち宮崎県に早期に侵入した4種の外来昆虫(アルファルファタコゾウムシ,タバココナジラミ-バイオタイプQ,トマトハモグリバエ,ミナミキイロアザミウマ)の分布拡大のようすを現在の口蹄疫のデータと合成して作成したパターンを示します.

 絶対的な侵入時期はわかりませんが,口蹄疫もおよそこのような順番で分布拡大する可能性を否定できません.リスクの高い地域には優先的に警戒努力量を配分するなどの対応が可能かもしれません.

 新しい分布拡大があった場合には情報を更新して行く予定です.

 

将来予測

12010613日現在の,偶蹄類の口蹄疫の分布拡大予測.絶対的な侵入時期は不明だが,色の濃いところで早期に侵入するリスクが高い.

 

 


12010613日現在の,偶蹄類の口蹄疫の相対的な分布拡大予測.絶対的な侵入時期は不明だが,数値の小さなところで早期に侵入するリスクが高い.

都道府県

相対侵入時期

予測

 

都道府県

相対侵入時期

予測

 

都道府県

相対侵入時期

予測

沖縄県

0.078

 

兵庫県

0.123

 

滋賀県

0.156

宮崎県

0.086

 

愛知県

0.126

 

埼玉県

0.161

長崎県

0.092

 

広島県

0.127

 

福島県

0.166

鹿児島県

0.096

 

奈良県

0.131

 

長野県

0.172

佐賀県

0.098

 

鳥取県

0.131

 

山梨県

0.174

福岡県

0.098

 

愛媛県

0.132

 

群馬県

0.178

高知県

0.101

 

千葉県

0.132

 

栃木県

0.178

熊本県

0.101

 

徳島県

0.133

 

福井県

0.196

香川県

0.103

 

岐阜県

0.135

 

新潟県

0.201

大分県

0.103

 

三重県

0.142

 

山形県

0.205

山口県

0.116

 

静岡県

0.144

 

富山県

0.207

大阪府

0.117

 

神奈川県

0.148

 

宮城県

0.210

京都府

0.119

 

東京都

0.148

 

石川県

0.211

和歌山県

0.121

 

島根県

0.150

 

岩手県

0.213

岡山県

0.121

 

茨城県

0.153

 

北海道・

青森県・

秋田県

予測対象外

 

 

概 況

 

l  現在は宮崎県でのみ侵入が確認されています.

l  もし分布拡大が続けば,沖縄県,長崎県,鹿児島県,佐賀県,福岡県などに拡大するリスクがあります.

l  それでも分布拡大が止まらない場合は四国や近畿地方,瀬戸内地域に拡大し,その後は千葉県,岐阜県,三重県,静岡県,神奈川県など太平洋沿岸の地域にひろがる可能性があります.

 

 

注意・警戒すべきこと

 

l  口蹄疫も分布拡大する外来生物であり,おおむねこのパターンに従う可能性があります.リスクの高い地域には優先的に警戒努力量を配分するなどの対応が可能かもしれません.

l  野生のシカやイノシシ,カモシカなどに感染が拡大した場合には実質的にコントロールが不可能になる可能性があるため,厳重な警戒が必要です(ブタはイノシシを家畜化したもの).

l  人や物の移動には一定の傾向があると思われるので,それに随伴して非意図的に運ばれる多くの外来生物は,類似した分布拡大パターンを示すと思われます.口蹄疫も人や物の移動によって分布拡大すると考えられるので,外来昆虫の分布拡大と同じ空間パターンで拡大しても不思議ではありません.

l  なおサンプルとした外来昆虫(害虫)の具体的な分布拡大経路は不明であることが多く,温室に生息する外来害虫も,野外に生息する外来害虫も,実際の国内での分布拡大パターンはあまり変わりません.また国内の分布拡大だけでなく,海外からの再侵入のくり返しも行われています.

l  ただし参照した外来昆虫が未侵入のため,北海道・青森県・秋田県では口蹄疫についての予測ができませんでした.

l  今回の予測結果では温暖地の外来昆虫と類似したパターンを示しましたが,これは口蹄疫が暖地に特有のものだからではありません.東アジア南部などの温暖地から宮崎県に侵入した可能性があり(香港のものと遺伝的に近い),また宮崎県を起点をした分布拡大は温暖地性の外来昆虫と類似した分布拡大パターンを取るためです.東アジア南部からの再侵入が続くのであれば沖縄県にもリスクが残ることになります.逆に北アメリカからの侵入であれば別のパターンになると思われます.

 

 

掲載日:2010613日 (616日記述を小改訂)

分布データ: 外来昆虫の分布情報は,特殊報などをもとに森本信生(中央農業総合研究センター)が取りまとめたもの

予測: 小池文人(横浜国立大学)

・植物防疫に関する害虫の発生情報は都道府県知事が特殊報として報告する義務がある.この情報をもとに都道府県ごとの1対比較で侵入順序の星取表を作成し,これを合成して一般的な分布拡大パターンを得た.原理的には現在分布拡大中の種の情報を用いることもできる.
・今回参照した4種の外来昆虫の侵入時期と表1の相対侵入時期との相関係数は,アルファルファタコゾウムシはr=0.89,タバココナジラミ-バイオタイプQはr=0.71,トマトハモグリバエはr=0.86,ミナミキイロアザミウマはr=0.89と比較的高い値なので口蹄疫についても信頼性が高い可能性がある.
・計算ソフトは以下のサイトで公開している.
http://www13.ocn.ne.jp/~minnagis/

・飼料や子牛などの媒体の流れの情報を利用した分布拡大の予測手法はこちらを参照

概況,注意・警戒事項の記載者: 小池文人

 


 

 

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