チチュウカイミドリガニ (ミドリガニ類)
撮影:2008年8月31日,東京都京浜運河.背面には外来の貝(シマメノウフネガイ)が着生している. |
英名: Shore crab, Green crab (ごく近縁のヨーロッパミドリガニC. maenasとの総称) 学名: Carcinus aestuarii (日本に野生化したものはC. maenasとの雑種) 原産地: 地中海原産. 近縁のヨーロッパミドリガニは地中海以外のアイスランド,ノルウェー北部からアフリカのモロッコまで分布. 原産地での生態 よく知られているヨーロッパミドリガニの情報を記載しておく.ガザミのなかまで甲羅の幅が9cmに達するが後足にひれがなく潮が引いたあとの垂直な岸壁を登坂可能.内湾の海岸に優占する普通種で,砂泥底から磯,護岸など幅広いハビタットに生息し,海だけでなく汽水域にまで分布する.発生ではプランクトン段階があるが,地域間の遺伝的距離が大きく,幼生も含めて深い海峡を自然に渡ることはできないようで,自然の分布拡大能力はそれほど高くないと思われる.甲羅の色(緑〜茶色)や環境耐性(低塩分,低酸素など),攻撃性などには個体差がある. 情報源 |
将来予測
100回の確率的なシミュレーションの平均値
概 況
l 現在は東京・名古屋・大阪・北九州の4大都市圏周辺に分布が限られています.
l 自然の分布拡大速度は通常1〜2km/年と遅いのですが,船による二次分散で全国にひろがりつつあります.
l 現在分布していない仙台(2015年の予想侵入確率46%)や苫小牧(2015年の予想侵入確率40%)では今後30年以内に90%程度の確率で,また瀬戸内海沿岸の各地も今後30年以内に50%〜90%の確率で侵入すると予想されます.
l 200年後には生息可能な全国の全ての地域に60%以上の確率で侵入し,300年後には95%以上の確率で定着していると予想されます.
注意・警戒すべきこと
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体の大きな捕食者が外来生物として定着すると在来の生物に大きな影響を与えることが統計的に知られています.カニ類は潮間帯の生態系で強力な捕食者ですが,ミドリガニ類は甲羅の幅が9cmに達するため日本の潮間帯のカニ類としては最大級のサイズであり,潮間帯で優占して生態系に大きな影響を与える可能性があります.
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海外では、近縁のヨーロッパミドリガニが、侵入先である北米の東西岸で、1:砂や泥を掘り返して食物を探すため底質を撹乱する、2:幅広い食性と高い捕食圧を持っており、アサリやカキ、イガイ類などの水産二枚貝や魚類・甲殻類の幼体を捕食・食害する、3:エビ・カニ捕獲用の網の中の餌を奪う、などを通じて、在来の生物群集や水産業に大きな被害を与えていることが知られています。チチュウカイミドリガニも、今後、日本で自然の海岸や漁場へと分布域を拡大すると、これと同様な被害が発生する恐れがあります。
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日本で野生化しているのはチチュウカイミドリガニ(C. aestuarii)とヨーロッパミドリガニ(C. maenas)の雑種のなかでチチュウカイミドリガニに近いタイプで,同系統は日本のみに野生化しています(南アフリカには別系統の雑種が野生化).近縁のヨーロッパミドリガニ(C. maenas)は北米東西両岸,オーストラリア,南アフリカ,アルゼンチンに広く野生化し,世界の侵略的外来生物のワースト100にランクインしています.外見もよく似たヨーロッパミドリガニの日本での新たな野生化も警戒してゆく必要があります.未侵入のニュージーランドでは定着阻止のための警戒態勢をとっています(リンク).
l 主に船に付着したフジツボや貝などの間に隠れたり,生きた水産物に混在して移動されると考えられています.バラスト水でも運ばれるとの説もあります.シミュレーションによると船による移動がなければ全国への分布拡大に1000年かかる予想ですが,現在と同じように船で運ばれ続けると300年程度で全国にひろがりそうです.分布拡大を700年遅らせるためには,船体付着生物などの対策が重要に思われます.
掲載日:2008年10月2日,2010年5月31日改訂
分布データ: 岩崎敬二(奈良大学)ほか,日本プランクトン学会,日本ベントス学会による取りまとめ
・岩崎敬二・木下京子・日本ベントス学会自然保護保全委員会.2004.日本に人為的に移入された非在来海産ベントスの分布拡大について.日本プランクトン学会報 51: 132-144.
・Carlton,
J.T. & Cohen A. N. 2003. Episodic global dispersal in shallow water marine
organisms: the case history of the European shore crabs Carcinus maenas and C.
aestuarii. Journal of Biogeography 30: 1809-1820. (水温としては九州からサハリンまで分布可能)
・渡邉精一 1997. チチュウカイミドリガニの日本への侵入と繁殖. Cancer 6: 37-40.
計算方法:
・海岸を50km長のセグメントに切って分布状況を再現
・内航船による移動を考慮した.貨物を年に500万トンずつ運ぶと5年後の侵入確率は約10%になる.
・1985年以降の地中海地方からの新たな移入は統計的に検出されなかった.地中海(ジブラルタル海峡付近)からの侵入は過去に一度起きただけで,その後は内航船による国内の2次分散が続いていることが明らかになった.この結果は遺伝子の解析結果とも整合する(Darling et al. 2008).
・計算には「みんなでGIS」を使用した.
予測計算,種特性の記載,概況,注意・警戒事項の記載者: 小池文人(横浜国大) ・岩崎敬二(奈良大学)