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小池文人,横浜国立大学環境科学研究センター,koikef@ynu.ac.jp


<原著論文>
Koike F. 1985. Reconstruction of two-dimensional tree and forest canopy profiles using photographs. Journal of Applied Ecology 22:921-929.
 林冠の中や外の,さまざまな位置から写した写真を使って,透過型CTスキャナーと同じ原理で葉群密度の空間的な分布を求める方法を開発した.条件が良ければ地面からの写真だけから高い位置にある葉群の分布を求めることができる.これにより樹高の高い森林で非破壊的に葉群の密度を計ることが可能になった.(京都大学修士論文)

Koike F. 1986. Canopy dynamics estimated from shoot morphology in an evergreen bload-leaved forest. Oecologia(Berlin) 70: 348-350.
 林冠は葉やシュートの集団と考えることができる.そうするとシュートの分枝数から葉群の相対増加率を求めることができ,またシュートの長さから空間位置の移動速度を推定できる.千葉県の照葉樹林での調査では,葉群の増加率rは林冠表面ではプラスの値で活発に増加していたが,林冠直下ではマイナスの値で減少していた.林床近くではゼロに近い値で葉群の変化が少なかった.葉群の位置の空間的な移動速度は,ギャップ内で大きく,成熟した林冠表面では小さかった.光強度は移動速度(シュート長)よりも葉群の増加率(分枝数)に相関しており,これによって屈光性がなくても,光が来る方向への葉群の発達が起き,葉群が光のほうに向かって移動(成長)する.(千葉大学卒業論文)

Hara T., Koike F. and Matsui K. 1986. Crowding effect in marine macrophytic algae populations. Botanical Magazine, Tokyo 99: 319-321.
 草本から森林まで,陸上の植物では密度効果の二分の三乗則(密度が高くなるに従って,平均個体サイズがある決まった曲線にのって小さくなる)が成り立つことが知られている.海藻でこのような関係が成り立つのかをしらべた.紀伊半島の白浜でヤツマタモク,マメダワラ,トゲモクなどについて刈り取って調べたところ,この法則は海藻でも成り立っていた.

Tabata H., Tsuchiya K., Shimizu Y., Fujita N., Matsui K., Koike F. and Yumoto T. 1988. Vegetation and climatic changes in Nepal Himalayas I. Vegetation and climate in Nepal Himalayas as the basis of palaeoecological studies. Procedings of Indian national Science Academy 54A:530-537.
 ネパール・ヒマラヤで植生の分布を調べ,気象などとの相関を調べた.

Koike F. 1989. Foliage-crown development and interaction in Quercus gilva and Q. acuta. Journal of Ecology 77: 92-111.
 樹冠や林冠をシュート群と考え,植栽されたアカガシとイチイガシの樹冠の発達と樹冠間の相互作用を増殖と拡散の過程としてモデル化した.展開行列から求めたシュート群の増加率は光の影響を受け明るい所で増殖し暗い所で減少していたが,シュートの伸長方向には光の影響は検出されずに重力の影響(負の屈地性)のみが検出された.この場所での耐陰性(シュート群を維持できる限界の光強度)はイチイガシの方がアカガシより強かった.シミュレーションの結果,実際と似た樹冠のかたちが再現された.耐陰性に少し違いがあっても樹冠どうしには対等な相互侵食が起きることがわかった.多少とも耐陰性が異なる多種からなる森林で森林更新のギャップ・ダイナミクスが起きるのはこのメカニズムによると考えられた.耐陰性が大きく異なる場合には陽樹の下に陰樹の樹冠が発達する,遷移の途中相の相互作用が現れると考えられる.シュート群動態のパラメータを変えたシミュレーションでは,側枝の分枝角や屈地性などは影響を与えたが,シュート当たりの葉面積はあまり影響がなかった.(京都大学博士論文)

Koike F., Tabata H. and Malla S.B. 1990. Canopy structure and its effect on shoot growth and flowering in subalpine forests. Vegetatio 86: 101-113.
 ララ湖国立公園(ネパール)と知床国立公園(日本)の亜高山帯林で,葉群の密度分布として林冠構造を調べ,成長や開花などの生態学的な過程との対応を調べた.分散分析を使って葉群の分布パターンを解析したところ,タテの構造を持った林冠構造(たとえばネパールの樹高の高いAbies spectabilis林)と横に成層した林冠構造(たとえばネパールのQuercus semecarpifolia林や知床のダケカンバ林)があることが定量的に明らかにされた.シュート群の増加率は葉群密度の高いところで大きな値であった.林冠の中で開花する場所は,種によって林冠表面でのみ開花するもの(Quercus semecarpifolia)と林冠下でも開花するもの(Rhododendron campanulatum)とがあった.また,種の最大樹高とシュート長には大まかな正の相関があった(京都大学修士論文).

杉村喜則 and 小池文人. 1991. 宍道湖・中海汽水域における大型藻類及び海性沈水草本植物群落とその分布. 汽水湖研究 創刊号.81-86.
 山陰地方の汽水湖である宍道湖と中海で海藻群落の植物社会学的研究を行った.宍道湖の表層は海水の1/10程度の塩分濃度であり,一部にカヤモノリが混在するスジアオノリ群集と飛沫帯にも分布するホソアヤギヌ群集がみられた.中海の表層水は海水の約1/3程度の塩分であり,本庄工区側にはウミトラノオの優占するアナアオサ群集ウミトラノオ亜群集があるのに対し,中海本体にはアナアオサ群集カタノリ亜群集が,米子湾ではボウアオノリ群集が分布していた.このように中海では塩分濃度だけでは説明できない違いがあったが,波あたりによるものか,水質悪化と関係するのかは不明である.またウミトラノオなどのように海では主に浅い水深に分布する海藻が,汽水域では水深の深いところに分布しており,ニッチの移動が観察された.競争種の存在の有無による可能性がある.

Koike F. and Syahbuddin 1993. Canopy structure of a tropical rain forest and the nature of an unstratified upper layer. Functional Ecology 7: 230-235.
 スマトラの樹高60mほどの熱帯多雨林で林冠断面における葉群の密度分布を写真を使った方法で調べ,水平方向に複雑な林冠構造を持っていることで有名な熱帯多雨林の林冠構造をはじめて定量的に明らかにした.高さ15m以下に水平方向に成層する層があり,それより上層では葉群はほぼランダムに分布していた.上層がこのような林冠構造になる理由については,(1)巨大高木層の樹高成長が遅く最大樹高に達して成長が飽和する前に倒木や枯死してしまうという仮説と,(2)異なった最大樹高を持つ種がかなり等しい優占度で混在しているため,という仮説とが考えられた.樹木の成長の解析から巨大高木層の樹木にも成長の飽和が見られ,後者のメカニズムであることが明らかになった.

Koike, F. and Hotta, M. 1996. Foliage canopy structure and height distribution of woody species in climax forests. Journal of Plant Research 109: 53-60.
 東アジアのさまざまな極相林の林冠断面における葉群の密度分布から林冠構造を調べ,種の最大の樹高の分布との対応を見た.熱帯多雨林では15m以下の葉群の密な層に種が多く熱帯多雨林の多様性は下層によっていることが明らかになった.亜熱帯林と照葉樹林は林冠層の種が多く,特に照葉樹林の低木層の種数は貧弱であった.冷温帯落葉広葉樹林(ブナ林)では林冠層の種は少なかったがササの多い低木層で種が非常に豊かであった.亜高山帯林にもササはあったが,林床の低木種は貧弱だった.常緑樹林では葉群の密な層で種が多い傾向があった.林冠構造は主に優占種によって作られるが,種の分布では非優占種のふるまいが重要である.地域の種のプールは種の分布に影響を与える.林冠構造は種の生存可能性によって短期的に地域の種のプールに影響を与えると共に,種分化をとおして進化的時間スケールでも影響を与えているかもしれない.

Suzuki, E., Hotta, M., Partomihardjo, T., Sule, A., Koike, F., Noma, N., Yamada, T., and Kaji, M. 1997. Ecology of Tengkawang forests under varying degree of management in West Kalimantan. Tropics 7: 35-53.
 Tengkawang類はフタバガキ科のShorea属(一部近縁の他属)のなかで種子の油が食用になる数種であり,チョコレートや化粧品の原料として使われる.この林の管理を西カリマンタンで調べた.Tengkawang Tunkulは河畔林を構成し大きな種子をつける樹高40m程度の高木種である(なんとなく温帯のトチノキやクルミを想わせる).最も粗放な利用が行われているところでは,河畔の砂の堆積上の自然林に結果時だけ小屋掛けして種子が採集されていた.定住民家の近くでは,同様の立地の森林から不用樹種を除伐し有葉樹のみを残す管理が行われていた.さらに一部ではTengkawangの植林もなされており,Tengkawang Tunkulの約100年前の植林も残っていた.カリマンタンの熱帯多雨林で森林や生物相を維持しながら住民の経済的な向上を図る上で有用な種であるが,隔年結果性が強いため豊作年は工場の処理能力が飽和し,それ以外の年には安定供給できないなどの問題点がある.

Koike, F., Riswan, S., Partomihardjo, T. Suzuki, E. and Hotta, M. 1998. Canopy structure and insect community distribution in a tropical rain forest of West Kalimantan. Selbyana 19: 147-154.
 熱帯多雨林の林冠での飛翔昆虫の分布は,送受粉や葉の被食など植物の生活に大きな影響を与える.そこで西カリマンタンの熱帯多雨林の林冠断面での昆虫群集の分布パターンを大まかに把握することを試みた.この研究の特徴は以下のとおりである.(a)葉群密度を用いて,定量的な林冠構造との関係を初めて調べた.これまでは高さや林冠のスケッチのみだった.(b)熱帯多雨林は複雑な構造をしているため,林冠ギャップを含む断面で2次元的に調べた.(c)粘着トラップを用いて高い空間解像度で調べた.これまでは分布を乱す光トラップや解像度の低い殺虫剤散布などによる研究が多かった.(d)分類群は目レベルと対数間隔の体長によって区分した.種まで同定できれば良いのだが熱帯多雨林の昆虫の分類が終了する見込みがないため,百年河清を待つことはできない.(e)植物群集(comunity)の分類に使われ,植物社会学の方法をプログラム化したTWINSPANを用いた.以上の結果,熱帯多雨林の林冠はギャップ上部や(多分)林冠上にも広がるA層(アザミウマや小型のハチ類が多い)と,樹冠下のB層,林床のC層(甲虫が多い)の大まかには3層からなることがわかった.カゲロウなどの水棲昆虫は川の水面近くにのみ多く,林冠内には広がっていなかった.植物と訪花昆虫の関係について研究が進んでいるが,花の形態や蜜の量などだけでなく花の咲く位置がどの昆虫群集内にあるのかも,訪花昆虫相に大きく影響すると考えられる.

小池文人,相崎守弘,清家泰,秋葉道宏,奥村稔,藤永薫.1999.塩濃度の変化から推定した本庄水域の表層水の交換率.Laguna(汽水域研究) 6:19-25
 湖沼や湾などの閉鎖的な水域での水の交換速度の推定は,生態系のなりたちを知ったり,水質浄化法の設計や,漁業における養殖方法・規模などの検討に不可欠である. 島根県と鳥取県の境にあり日本海に通ずる汽水湖である中海の中に干拓が計画されている本庄水域があり,狭い水路で中海とのみ通じている.従来からの水路に加えて,最近になって北部に別の通水路が試験的にもうけられた.この水域の表層水の交換率を塩濃度の変化パターンから推定した.塩濃度の変化については, 「本庄工区の塩濃度の変化速度」 = 「交換率」×「本庄工区と中海の塩濃度差」 の式がなりたつ.本庄工区と中海本体の塩濃度の観測値があれば未知数は交換率のみとなり,推定可能である.reduced major axis法と主成分分析による直線近似と平面近似を用いて推定し,ブートストラップ法で信頼性を検討した.本庄水域の水は1日に2.26%が中海本体と交換していた.通水試験後は3.36%であったが,観測季節に偏りがあるためもあり,通水試験の前後の差を計るには十分でなかった.また新しい水路からの交換は検出できなかった.本庄水域では外部の水域との濃度差がない状態でも,定常的に1日あたり0.0403‰/日から0.0461‰/日の塩濃度上昇があり,高塩濃度の底層水との混合による可能性がある.


<総説>
小池文人 1989. 環境を介した植物の種間の相互作用. 個体群生態学会会報 45: 57-64.
 群集での種の優占度の変化についてのモデルを,モデルの詳しさなどで分類することは良く行われているが,ここでは種数の増加に対するパラメータ数の変化から,2つのタイプに分けた.ひとつは種数の積に比例してパラメータが増えるもので,Lotka-Volterraのモデルなどのように,種どうしの関係を直接記述するモデルである.他方は種数に比例してパラメータ数が増えるTolmanの資源競争モデルなど,共通の環境と種の相互作用を記述するモデルである.捕食.被食関係も,個体サイズや行動特性などの特性をもつ個体の群集内での密度を記述して共通の環境とすれば,後者の方法で扱える.前者は種数が少ない時のパラメータ数が少ないが,多種になると爆発的に増える.後者は多種でもパラメータ数がそれほど増えず,また種間関係を直接記述するのでないため,群集内に存在したことのない外来種の侵入可能性や,存在できない種がなぜ存在できないのかを明らかにでき,現実の群集の研究に適している.

小池文人 1995. 森林群集の多様性研究における分子系統樹利用の可能性. 種生物学研究19:33-37.
 日本の亜高山の混交林や,ブナ林,照葉樹林,またスマトラやボルネオの熱帯多雨林においても,ひとつの極相森林群集に出現する種数は,その地域のフロラの中の共通して30-50%である.フロラの豊かさも群集の多様性の重要な要素である.種数の増加率が同じであっても,種分化率が高く絶滅率も高い場合と,種分化率も絶滅率もともに小さい場合とでは分枝系統樹に違いが出る.そこで分枝系統樹の形に対する熱帯と温帯の違いを調べることにより,熱帯での高い多様性の原因を調べることを提案する.科・属・種などの既存のデータを実際の群集に当てはめたところ,温帯から熱帯までは系統樹の分枝率が増加してより高回転型(高い種形成速度と高い絶滅確率)になっていた.亜高山帯ではマツ科が活発に分化していて分枝率が高くなっていた.

小池文人1996. 葉群やシュート集団の動態からみた樹冠と林冠. 日本生態学会誌 46:93-95.

小池文人 1997. 樹冠と林冠の構造と動態,森林科学 20: 8-13.


<著書>
小池文人 1993. 植物の相互作用. 基礎生物学講座 第9巻 生物と環境,朝倉書店. 66-82.

小池文人 1995. 樹冠と林冠の発達と機能. 現代生態学とその周辺.東海大学出版会. 110-118.


<記事>
小池文人 1992. 生態学の消長に付いて思うこと.京都大学生態学研究センター・ニュース No.5

小池文人 1995. 植物のデータベースの可能性について. 日本植物分類学会ニュースレター No.80

小池文人 1998. 汽水域に親しむ. 汽水湖 11号: 56-57


<報告書>
松井淳,甲山隆司,小池文人 and 酒井聡樹. 1985. 知床半島遠音別岳周辺における森林植生の垂直分布と林木群集の構造. 遠音別岳原生自然環境保全地域調査報告書, 環境庁自然保護局.173-200.

佐藤謙,西川恒彦,酒井聡樹,松井淳,甲山隆司,小池文人.小林正寛,伊藤浩司. 1985. 遠音別岳原生自然環境保全地域と知床半島全域の維管束植物相.遠音別岳原生自然環境保全地域調査報告書, 環境庁自然保護局. 115-172.

Koike, F. 1994 Structure and light environment in the forest canopy of Lambir Hills National Park, Sarawak. Plant reproduction system and animal seasonal dynamics (ed. by T. Inoue and A. Hamid). 40-42.