パイプ潮通し前の島根大学の研究者を中心とした調査結果の報告会

本庄水域はいま?

 

1998年4月16日(木)夕方6時〜8時, 島根県民会館307室 (松江市殿町158

 

プログラム

1.本庄工区水産調査専門委員会について(徳岡隆夫,総合理工学部)

2.各分野の報告:

徳岡隆夫(総合理工学部): 本庄工区の地形と地質

高安克已(汽水域研究センター): 本庄工区承水路付近の水塊の動き

汽水域研究グループ(国井秀伸・高安克巳・大谷修司・清家泰・星川和夫・越川敏樹・大塚攻・神谷要・矢部徹: 本庄工区の種多様性に関する調査結果 (平成89年度)

野村律夫(教育学部): 本庄工区のメイオベントス(有孔虫)からわかる湖底環境

秋葉道宏(生物資源科学部): 本庄工区内の底層環境と底生生物の分布

三瓶良和(総合理工学部): 本庄工区の底質の季節変動

相崎守弘(生物資源科学部): 本庄工区の水質変動特性

伊藤康宏(生物資源科学部): 本庄工区の水産資源 

3.討論

潮とおし以降の調査計画や今後の調査のありかたについて

 

趣旨

 農水省による本庄工区へのパイプによる潮とおしの工事が完成し,干拓による農業利用のみならず,水域として水産利用した場合にどうなるかを比較検討するための 「世紀の実験」 が進行中です.この1年間,島根大学の研究者をはじめとして本庄水域について各専門分野からの調査がなされ,また農水省による調査も行われ,結果の一部が公表されています.今回は調査に関係された方々に呼びかけて,それぞれの調査内容についてお話しいただき,また農水省の調査結果についてもそれぞれの立場からわかりやすく解説していただくことをねらいとして,講演・討論の機会を設けました.

 また,この機会に潮とおし以降の調査計画や今後の調査のありかたについて参加者の方々からもご意見をいただき,今後の調査に生かすことができればと考えております.

 

主催・連絡先:日本科学者会議島根支部,Tel. 0852326440(小池)

http://www.dango.or.jp/jsa-sima/

 

 

 




 本庄工区関連の調査で何を調べるべきかについてシンポジウム当日に出た意見を列記します.
小池

「本庄水域はいま? −パイプ潮通し前の島根大学の研究者を中心とした調査結果の報告会−」
1998年4月16日,島根県民会館



<こんどの農水省調査に対する改善点>
  1. 通水期間を延長することが必要(水底の生物群集が安定するまでに数年はかかる.過去の覆砂実験のデータからも必要な時間が推測できるかもしれない)
  2. 水位と水流の実測が必要である.できれば承水路,中浦水門,境水道などと,本庄工区内部,中海本体を含めて,表層と低層の両方で.
  3. 農水省の調査はベントス調査でのサンプル数が少ない.多くしたほうが良いのでは.
  4. ベントスなどの生物の調査は,生活史の研究も必要.そうでないとサンプルされたベントスが,そこで生殖と成長を行って生活環を全うしているのか,あるいは幼生が流れ着いて一時的に幼い生物が出現しているだけなのか,区別できなくなってしまう.
  5. 本庄工区は有孔虫から見ると非常に変なところである.有孔虫などの環境に敏感な生物を指標にして調査すると良い.
  6. 本庄工区内で貝が親にならずに死滅してしまう原因を生態系の問題として明らかにする必要がある.これがわかれば貝類の生産も上がるのではないか.有孔虫がいないのと同じ原因かもしれない.
  7. 潮通し実験はパイプ付近の2枚貝に影響するだけで,これだけから本庄工区全体の漁業のポテンシャルははかれない.
  8. 平成9年度は多雨だったので平年の状態と違うかもしれない.
  9. 税金で調べたデータなので,市民にも全部公開すべきだ.


<今回の調査にとらわれない,新しい調査の提案>
  1. 漁業振興のためには直接的に漁業対象の生物を調べるだけでなく,生態系全体(水の循環や水質,有機物の循環,生物の個体群動態と相互作用)を良いものにしていくほうが近道であろう.
  2. 今の本庄工区では中海本体と比べると水底に有機物が少ない.底性動物の餌になる有機物がどこで生産され,どこに移動し,どこで酸化的or還元的に分解されているのか,有機物の循環を定量的に調べる必要がある.
  3. 漁業的に重要なハゼ,スズキ,アサリ,サルボウなどに加え,生態系で重要なホトトギスガイやカキ類その他の生物などについても,標識再捕獲法などで回遊経路や死亡率,成長速度などの調査を行う(本庄工区だけでなく中海本体も含めて).
  4. 藻場の造成などもやってみては.
  5. 生物どうしの相互作用系(食物網,藻場の効果など)などについても調べる必要があるのでは.
  6. 今回の通水実験だけでなく,もっと大きなスケールでの実験を行うべきだ(たとえば,中浦水門では表層水を,本庄工区側では低層水を通すことにより,密度流による一定方向の循環ができる可能性がある)

 

 

 

 


中海本庄工区の種多様性に関する調査

 

汽水域研究グループ

國井秀伸(島根大学)・高安克巳(島根大学)・大谷修司(島根大学)・清家 泰(島根大学)・星川和夫(島根大学)・越川俊樹(島根野生生物研究会)・大塚 攻(広島大学)・神谷 要(米子水鳥公園)・矢部 徹(国立環境研究所)

 

 干拓が計画されている中海本庄工区において,干拓に伴う環境影響評価を生物多様性保全の観点から行うため,工区の水質や種々の生物相の現況把握調査を実施した.本庄工区は堤防に仕切られ閉鎖性が強いにもかかわらず,中海より透明が高く,全リン,全窒素濃度は中海よりも低い傾向があった.塩分躍層が中海より弱いことも特徴である.本庄工区では,動植物プランクトンは汽水域や内湾に特徴的な種類が優占する.海藻類ではウミトラノオ,シオグサ科及びイトグサ科が工区内で多く見られ,レッドデータブック(RDB)記載種の顕花植物カワツルモも確認された.ベントスは主に貝類の組成から6つの群集に分けられた.魚類は汽水域に生息する種類が多く70種が出現した.海鳥は冬季に4万羽が飛来し,RDBに記載種のカンムリカイツブリ,コハクチョウ,ミサゴなどが確認された.大根島の洞窟からは島根県の要保護種のイワタメクラチビゴミムシが確認されている.以上のように,本庄工区はRDB記載種の存在も含め,生物相が豊かな水域であると考えられた.

 

はじめに

 島根県と鳥取県にまたがる中海は,隣接する宍道湖とあわせて我が国最大の汽水湖である.この中海・宍道湖をはじめとする汽水湖は極めて貴重で稀少な生態系を構成しており,その保全には万全を期さなければならないであろう.しかし島根県は中海の面積の1/5にあたる1700haという広大な水域である本庄工区の干拓を再開し,農地として利用することを表明した.しかしながら,本庄工区に関する生物の総合的な調査はこれまでになされていない.そこで我々は,生物多様性の保全の観点から,水質,動植物プランクトン,海藻類,魚介類,昆虫類,鳥類など,様々な生物相の現況把握調査を実施することとした.

なお,本調査は1996年度(第7期)のプロ・ナトゥーラ・ファンドの調査研究助成を受けて行われたものであり,今回発表する内容の多くは,現在も「中海本庄工区の生物多様性と生態系調査」と題し,文部省科学研究費補助金による調査に引き継がれている.

 

1.水質(担当:島根大学総合理工学部 清家 泰)

1996年9月から1997年9月にかけて,月1回の頻度で計13回水質調査を行った.本庄工区水質の中海水圏における位置づけを明確にするため,中海水域の平均的水質を示すと考えられる中海湖心についても同時に調査し,比較検討した.塩分,水温,溶存酸素はマルチ水質センサー(YSI model 3800)を用いて現場で測定した.Chl-aSCOR/UNESCO法により定量した. T-Pはサンプルを過硫酸カリウムで分解した後,リブデンー青法により定量した.T-Nは微量全窒素分析装置(三菱化学,TN-5型)を用いて測定した.

 中海湖心の塩分は,上層(水深1m)で5.921.1(平均14.0),下層(湖底上1m)で23.430.8(28.4)であり,本庄湖心はそれぞれ9.220.3(17.4)及び13.523.3(19.9)であった.上層,下層の塩分差(平均)は中海湖心が14.4であったのに対し,本庄湖心は僅か2.5であった.この結果は,中海水域の塩分躍層は強固であるのに対し,本庄工区のそれは微弱であることを示す.

 透明度は,中海湖心が0.32.4m(平均1.5m)であるのに対し,本庄湖心は1.34.2m

(平均2.6m)であり,中海湖心よりもかなり良好であった.植物プランクトン量をChl.a濃度で代表させて比較すると,平均濃度が13.0μg/l(赤潮時データは除く)であった中海湖心に対し,本庄湖心は平均7.6μg/lに抑えられていた.栄養塩(T-P, T-N)についてみると,中海湖心の65μg/l(T-P)および503μg/l(T-N)に対し,本庄湖心は59μg/l(T-P)および401μg/l(T-N)であり,本庄湖心の平均濃度は,中海湖心に比べそれぞれ約1割及び約2割低濃度であった.以上のように,本庄工区は良好な水質を維持していることが分かった.

 本庄工区が,森山堤防と大海崎堤防によって仕切られ,閉鎖性が強まったにもかかわらず,中海水域の水質よりもむしろ良好な状態にあるのは一見不思議な現象とも写るが,集水域からの流入負荷が小さいことが,本庄水域の水質悪化を抑制している最大の要因と考えられた.

 

2.植物プランクトン(担当:島根大学教育学部 大谷修司)

 本庄工区湖心,西部承水路および,中海湖心の計3地点で199611月から199710月にかけて毎月1回採水を行い,植物プランクトンの種類組成とその季節変化を調査した.採水した試料200mlをミリポアーフィルター(孔径0.45mm)で濾過し,その表面に集積した藻類を100倍に濃縮し,光学顕微鏡で種の同定を行った.本庄工区内からは藍藻1,渦鞭毛藻3,珪藻8,黄金藻1,緑藻1種の計14種類が出現した.本庄工区の優占種は,内湾や汽水域で普通にみられる珪藻のSkeletonema costatum, Cyclotella,渦鞭毛藻Prorocentrum minimumなどであった.本庄工区は中海と同様にときどきProrocentrum minimumの赤潮が発生する富栄養な水域である.工区内の種類組成は中海とほぼ同じであり,本水域を特徴づける種類はない.しかし,優占種の季節変化は中海と本庄工区では異なっており,Prorocentrum minimumは中海では199612月から19975月まで長期にわたって優占したが,本庄工区では4月に優占したにすぎなかった.工区内の出現種数は中海湖心より少く,この原因として,宍道湖や淡水河川など,より低塩分な環境に生育する種類の流入が少ないことが考えられた.

 

3. 海草及び大型海藻類(担当:島根大学汽水域研究センター 國井秀伸・矢部 徹)

 調査は19965月から12月にかけて約6週間おきに7回行った.中海および大橋川の岸辺に調査地点を約3kmごとに24カ所設け,それぞれの地点において出現種の幅約12m,長さ約10mのコドラートを想定して被度と群度を記した.また水質として水温と電気伝導度を測定した.

総出現種数は緑藻6,褐藻3,紅藻11,種子植物3種の計23種であった.このなかで最も多く見られたのがアオノリの仲間(Enteromorpha spp.)とウミトラノオ(Sargassum thunbergii),前者は大橋川と中海の全ヵ所で,後者は中海のほぼ全ヵ所で見られた.本庄工区内では危急種である汽水産の水草のカワツルモ(Ruppia maritima)も見られた.出現種には工区内外で大きな差は認められなかったが,種によって分布の中心が異なり,以下のように分けることができた.

1. 全域に生える種:アオノリの仲間,オゴノリ,ムカデノリ.

2. 境水道付近に多い種:ミル.

3. 本庄工区内に多い種:ウミトラノオ,カワツルモ,シオグサ類,イトグサ類.

4. 本庄工区外に多い種:アナアオサ,カヤモノリ,カタノリ,フクロノリ.

5. 大橋川に多い種:コアマモ,ホソアヤギヌ.

6. 地域的特性はないが希れな種:タマジュズモ,ホソジュズモ.

7. 美保関に出現する種:ピリヒバ,ツノマタ,フダラク,マクサ,オキツノリ.

 各調査日の被度を元に主成分分析を行ったところ,本庄工区の種組成は,夏には中海南岸に近く,秋から冬にかけて境水道に近くなることが示された.季節性をなくすために年間最大被度を用いた主成分分析では,工区は境水道と中海南岸の中間的傾向を示した.第1主成分と各調査地点の年平均電気伝導度には強い相関があり,各地域の群集は塩分濃度に依存して推移していることが示唆された.また,過去の観察例との比較から,中海の水生植物相は1977年当時から安定していると考えられた.今回の調査によって本庄工区内に危急種のカワツルモが発見されたことは重要である.カワツルモはヒルムシロ科に属する1年生または多年生の汽水産水草で,海岸部の湖沼や塩田あとの水溜まりなどに生育する.近年水質汚濁や自然海岸の消滅で生育地が激減しているが,今回の調査で松江市野原町弁慶島周辺,同市長海町,手角町にわたる水路で発見することができた.

 

4. 動物プランクトン(担当:広島大学生物生産学部 大塚 攻)

 ネット動物プランクトンは,1997110,48,710,92,3日の4,中海湖心St.4,本庄工区湖心St.24,西部承水路St.26の3定点で,北原式ネット(網目0.1mm)を底から約50cmの深さから水面まで鉛直曵きを行い採集した.動物について分類群ごとに同定,計数し,1立方メートル当たりの個体数(密度)を算出した.

 全般的傾向として,群集組成的にはいずれの定点も類似しており,典型的な汽水性種及び強内湾性種から構成されている.典型的な淡水性種の出現はなかった.単位体積当たりの総個体数では常にSt.26が多く(1-116,8774-35,3167-48,2889-177,618; 平均-94,525,St.4,St.24の平均総個体数の2.6-2.9倍に達した.最も優占した動物群は甲殻類のカイアシ類コペポデイッド(幼体+成体)で,常に全体の60%以上を占めた.優占種は汽水性のAcartia hudsonica,A.sinjiensis,Eurytemora pacifica,Sinocalanus tenellus,強内湾性のOithona davisaeの5種で,この中でO. davisaeがカイアシ類の中でほぼ常に優占し,35-99%を占めた(図2).汽水性4種は季節的消長が顕著で,1,4月の冷水期(5.3-12.2 ℃)にはA. hudsonica,E. pacifica,7,9月の暖水期(22.7-29.1)にはA. sinjiensisが出現し,S. tenellusも冷水期に多い傾向が見られる(図2).St.4に比較しSt.24,26は汽水性4種の密度,割合が高い傾向も特徴的である.汽水性種がプランクトン中に出現しない時期には耐久卵として湖底で休眠状態にあると推定される.カイアシ類についで密度が高かったのはカイアシ類ノープリウス幼生及び二枚貝・巻貝類ベリジャー幼生,汽水性輪虫Brachionus spp.,前者は通年出現し,2者はほぼ7,9月に限り出現した.なお,この時期,St.26ではベリシャー幼生の密度(1m3当り3,964-19,924個体)はSt.420倍以上であった.

 いずれの定点の動物プランクトン群集も汽水性種と強内湾性種,特にカイアシ類から構成されているが,本庄工区内,西部承水路が中海湖心に比較し,汽水性種の密度,強内湾性種に対する割合が相対的に高くなっていること,ベリジャー幼生が著しく密度が高いこと,が特徴として上げられる.特に西部承水路では暖水期でも貧酸素水塊が形成されないことから,プランクトンとともにベントスも豊富でその浮遊幼生(ベリジャー幼生)の密度も高いと考えられる.

 

5.ベントス(担当:島根大学汽水域研究センター 高安克巳)

 沿岸部以外の本庄工区内および西部承水路の39地点において,ベントス調査を行ない,貝類,節足動物,多毛類について産出個体数から以下のような群集に区分した.水質の概略も示したが,現段階では群集間に有為な差は認めがたい.

 

貝類:ホトトギスガイ群集;砂〜泥底の水深45,水温25.826.1,DO 20.664.3,

塩分12.513.9psu.局所的に密集して生息する.

アサリ-ホトトギスガイ群集;大根島北岸の砂底.水深3.44.8,水温25.727.0,

DO 39.878.2,塩分11.313.0psu

エドガワミズゴマツボ-ホトトギスガイ群集;工区北部の砂質底.水深2.455.7,

水温26.026.1,DO 25.382.9,塩分11.9514.2psu

カワグチツボ-ホトトギスガイ群集;工区西部〜西南部の泥質底.水深3.15.9,

水温25.626.4,DO 33.665.4,塩分12.114.1psu

カワグチツボ-エドガワミズゴマツボ群集;工区西部〜西南部の泥底.水深1.74.6,

水温23.226.0,DO 37.561.8,塩分12.613.8psu

エドガワミズゴマツボ群集;工区北部の泥底;水深5.76.8,水温25.926.0,

DO2 6.146.8,塩分14.014.1psu

工区内で貝類が全く分布しなかったのは4地点あり,それらは北部の森山堤近くの深所または排水溝内にあたる.水深6.011.7,水温11.426.0,DO0.042.92,

塩分13.824.5psu

 

節足動物:ウミナナフシ,オヒラキヒラムシ,マダラウロコムシ,マメコブシガニ,イソコツブムシ,およびヨコエビ類が少々認められるが,全体に非常に貧弱である.西部承水路北端の本庄地先でイソコツブムシが100個体を越す地点が認められた.

 

多毛類:工区にはウミイサゴムシ,ゴカイ,ハナオカカギゴカイ,ミナミシロガネゴカイ,ドロオニスピオ等がみられ,とくにウミイサゴムシ−ハナオカカギゴカイ群集は工区北部の泥低に広く分布している.工区内で多毛類を全く産しない地点は排水ポンプ場前の深所とそれに繋がる排水溝内の2地点である.

 

6.魚類 (担当:安来市立南小学校 越川敏樹)

 本庄工区水域において,専業漁師によって設置された定地網(俗に,ます網)の漁獲内容から,4070種の魚類を確認した.特徴としては,汽水性の強いタイプの魚種が大半を占めており,外洋性の魚種は少ない.また,淡水性の魚種は降雨後に混入することがあるが,量的には少ない.

 本水域は中海と同様に,冬季から春にかけて種類数が大きく減少する傾向がある.それは,厳寒期の13月には低水温を避けて,多くの魚種が外海に移動することによる.したがって,本水域において,低水温期にも移動せず周年にわたって見られる種,マハゼ,ウロハゼ,チチブ・シモフリシマハゼ・ビリンゴ・ニクハゼなどハゼ科の他に,セスジボラ,クロソイであり,種類数は少ない.それに対し,厳冬期を除く時期に長期間にわたって出現する種として,コノシロ,サッパ・ウグイ,ワカサギ・シラウオ・ウナギ・サヨリ・ヨウジウオ・タツノオトシゴ・セスジボラ・ボラ・メナダ・ヒラギ・スズキ・ギンポ・クサフグ・トラフグ・マゴチ・ヒラメなどが挙げられる.よって,年間を通じて,多くに期間上記の種が普通に見られることになる.高水温時を中心に,比較的長期間出現する種として,アカエイ・マイワシ・カタクチイワシ・ダツ・クルメサヨリ・トウゴロウイワシ・シマイサキ・スジハゼ・アベハゼ・ヒガンフグ・マコガレイ・イシガレイが挙げられる.さらに,その時期に短期間あるいは偶発的に出現するものに,カワヤツメ・ゴンズイ・イカナゴ・テンジクダイ・タチウオ・マアジ・ヒラスズキ・ウミタナゴ・クロダイ・ヘダイ・マダイ・クロサギ・カエルウオ・ムスジガジ・ダイナンギンポ・タケノコメバル・ハコフグ・ホウボウ・など多くが挙げられる.逆に,低水温時に出現するものにイトヨがあり,アユ・サケ・マス・などのサケ目の魚類は早春と秋に見られる.

 漁獲の多い種は,コノシロ・サッパ・スズキ・マハゼ・ビリンゴでコノシロを除いて商品価値は高い.やや漁獲の多い種としては,アユ(45月)・ウナギ(811月)・サヨリ(35月)・アカカマス(910月)・ヒイラギ(411月)・マアジ(810月)・トラフグ(周年)・クロソイ(周年)・マゴチ(59月)・ヒラメ(周年)などが挙げられる.その他,多くは自家消費程度の漁獲量であるが,大型の個体か,まとまった量が漁獲された場合に商取引される種としてマス・シロザケ・ダツ・シマイサキ・ギンポ・ウロハゼ・チチブ・シマハゼ・マゴチ・イシガレイなどがある.

 

7. 鳥類 (担当:汽水域研究センター客員研究員 神谷 要)

 本庄工区の鳥類については,環境庁の全国一斉調査,建設省の水辺の国勢調査などが実施されている.しかし,それらは,一年に一回から二回程度,冬季に実施されたにすぎない.本調査では,通年的な水鳥調査を行い,本庄工区の季節的な変化を捕らえた初めての調査である.

 19961022日から19971028日までに月二回のペースで本庄工区(周囲約22km)を巡回調査した(計25回).調査は,昼間に行い,1kmごとに定点を設けて観察した.カウントした鳥は本庄工区水面上や水辺にいるものに限り,付近の河川や路上にいるものはカウントしなかった.天候,観察ポイントからの距離により同定できない鳥は, 不明種とした.

 調査期間中に,本庄工区で確認された鳥は,45種であった.この中にはRDB記載種(環境庁指定)であるカンムリカイツブリ,コハクチョウ,ミサゴが含まれていた.本庄工区の鳥類の飛来数は,冬季に海ガモ類(スズガモ,キンクロハジロ,ホシハジロ)を中心に4万1千羽(19種・19961210)を記録し最大となった.またこれらの海ガモ類すべて飛去した夏期に飛来数は,最小の51羽(9種,1997520日)であった.夏期にはサギ類が増加するが,その数は冬季の海ガモ類ほどではなかった.また,夏期における鳥類の繁殖も確認できなかった.これは,本庄工区内に干潟・浅瀬となる環境がほとんどないこと,ヨシハラの面積が極めて少ないことなどが考えられる.本庄工区では,冬季を中心にウミガモ類の採餌をよく観察しており,ウミガモ類の採餌地及び休息地としての機能を果たしているようだ.また,夏期には,サギ類,ミサゴの採餌を確認しており,これらの鳥達にとって採餌地として機能している.シギチドリ類が本庄工区内では確認数が少ないことから,シギチドリ類の渡りの中継地としての機能は,現在は小さいようだ.

 

 

8. 大根島溶岩洞窟(竜渓洞)の動物相 (担当:島根大学生物資源科学部 星川和夫)

 中海中央部には多孔質玄武岩からなる大根島があり,2つの溶岩洞窟が知られる.洞窟性動物にとって地下水の水質は重要な環境要因であり,もし本庄工区が干拓されると地下水の置換による洞窟内環境の激変が予想される.そこで島中央部にある第2溶岩洞窟(竜渓洞)において,計4回の動物相調査(1996年:8月8日,1997年:1月18,4月8日,1028日)を行った.調査は各回とも1〜数名による約3時間の見つけ採りにより行った.後述する動物のほとんどは洞窟内の床に散らばる石(ミカン大〜スイカ大)の下から発見された.洞窟の奥は水が溜まり天井が低く調査できなかった.この水量はかなり変動する.洞窟内は湿度飽和しており,その壁や石には菌類が認められた.菌類の発生は4月調査時に最も顕著であり,一抱えもある岩全体が真っ白になっているところも観察された.

 本調査の全体で以下の8種類の動物を採集した:1)線虫類の一種,2)コムカデの一種,3)トビムシの一種[A,4)トビムシの一種[B,5)ナガコムシ科の一種,6)ハサミコムシ科の一種,7)カマドウマ Atachycines apicalis,8)イワタメクラチビゴミムシ Daiconotrechus iwatai 現在(7)と(8)以外は同定依頼中である.最も個体数が多かったのは(3)であり, 毎回かなりの個体数が観察された.2回確認されたカマドウマを除き,他の6種はそれぞれ1回採集されたに過ぎない.イワタメクラチビゴミムシは1個体の採集であるが,この個体は捕食中であり口に餌をくわえていた.この餌は,その形状から(3)のトビムシと判断される.

 イワタメクラチビゴミムシは,この洞窟の固有属で18年ぶり5個体目の採集記録であり,島根県RDBでは要保護種に指定されている.この属(ダイコンメクラチビゴミムシ属)は,対馬と朝鮮半島南東部の洞窟に広く分布するチョウセンメクラチビゴミムシ属Coreoblemisと南西日本の洞窟に広く分布するノコメメクラチビゴミムシ属Stygiotrechusの両方に,形態的に類似しており,メクラチビゴミムシ類の系統関係を考える上でも重要な位置を占める属である.

 

 

 

 


有孔虫からみた潮通しの影響評価

 

野村律夫(島根大学・教育学部)

 

 

 3月中旬に北部承水路で境水道からの海水を導入し,アサリなどの漁業資源のための予備調査ともいえるパイプの設置が行なわれた.この潮通しは,水産資源ばかりでなく本庄工区内の環境評価とも関連しているため,生態系全体のなかで考察する必要がある.有孔虫は,今回の農水省の調査項目の対象になっていない中型ベントス(0.3mm程度)であるが,泥質の湖底に普遍的に生息しているため本庄工区を含む中海の80%以上にも及ぶ環境情報を提供してくれる.とくに,境水道からの幼体の侵入と湖底への定着は,本庄工区内の有孔虫がすでに消滅しているだけに工区内への海水の影響を直接示す証拠として期待される.

 ここでは,昨年10月と今年3月上旬に事前調査を行った結果について報告する.我々の主要な調査は,海水の導水パイプが設置されている工区内の水深4m5mに有孔虫採取用の仕掛けを設置しており,どの程度の有孔虫がこの仕掛けに入るか,中海と宍道湖と比較しながら月ごとの定期調査を行っている.

 

有孔虫から理解される湖水環境

1.有孔虫は新生有機物を好む種類(Ammonia beccarii)と腐泥食の種類(Trochammina hadai)がいる.中海のような硫化水素を発生させる場所(汚染泥)ではTrochamminaが,宍道湖のような塩分が低い場所(正常又は汚染の始まりを示す泥)ではAmmoniaが多い.どちらも環境に対する抵抗性があるが,極端な無酸素環境や低塩分環境では生息できない.

2.有孔虫の大増殖期は5月から6月である.それ以外では程度の差があるものの一定して生産されている.季節による生産が他の生物のように変動しないため,環境の年間変動を理解しやすい.

 

現在までに得られている結果

1.本庄工区内の有孔虫は,工区が閉鎖されて以降に完全に消滅した.工区内に生体はいない.

2.塩分の程度からみて有孔虫のいない工区内は,極めて特異な環境といえる.

 

水産調査専門委員会(第3回)へのコメント

1.マクロベントスの産状が8月の上旬とそれ以降で種類が極端に少なくなっている.

2.採泥方法に問題がないか.どこの深さまで堆積物を扱っているのか.

  また,面積当りの個体数表現をエクマンバージ型でできるのか.とくに節足動物の現存量.

3.環形動物は湖底の溶存酸素量によって堆積物中での生息深度が異なる.

2.マクロベントスは湿重量による表現がしてある.

  しかし成長段階が明記してなく,幼体と成体の区別がない.有孔虫のなかには環境ストレスによって成長できない種類がある.

 

有孔虫からいえること(4月の結果は,この講演で速報する)

1.もし,有孔虫が仕掛けの中に入っていたら明らかに潮通しの効果があったといえる(現在はいないのだから).

2.どの種類の有孔虫が仕掛けの中に入ってくるか.Ammoniaか又はTrochamminaか.これによって塩分による湖底への影響の程度を推察することができる.

3.仕掛けの中の有孔虫がどれだけの現存量をもっているか.中海や宍道湖との比較のうえ,有機物の湖底への付加程度や塩分効果の程度を推察することができる.

4.もし,生体の有孔虫が産出しないようであれば,工区内への潮通しの影響はないか,ほとんどないものと考えられる.

 

 

 

 

 

 

 

 


本庄工区の底質の季節変動

 

三瓶 良和 (島根大学総合理工学部

 

 

汽水湖では,一般に塩分躍層が形成されやすく,夏季には温度成層も加わって,下層が上層よりも重くなります.このため,上下の混合は起こりにくくなり,下層に貧酸素水塊が形成されますが,冬季には下層の水温が上層よりも高くなるため,混合が起きやすくなって底質にも十分酸素が供給されるようになります.現在の本庄工区では,塩分の濃い海水が直接入り込むことがないので,中海本体と比べて塩分躍層が形成され難く,湖底は中海本体よりも酸化的になっています.このような湖底の酸化・還元特性は底泥の性質に影響を及ぼし,底棲生物相も変化させるものと考えられます.本調査は,潮通しが行われる前の本庄工区の底質の状態を一年を通して把握し,潮通し後の状態との差を正確に読み取るために行われたものです.

調査は次の方法により行われました.本庄工区内に17地点の定点および中海側に1地点の対照地点を設定し,約2ヶ月ごと(56月,91,2日,1022日,1216日)にエックマンバージグラブサンプラーを用いて,底質を採取しました.表層の黄褐色酸化層の厚さを観察後,表層5mmをかきとり,70℃で1日乾燥後,含砂率および炭素・窒素・硫黄濃度を測定(FAISONS社製EA1108使用)しました.本庄工区では,炭素・窒素・硫黄濃度は,主にプランクトンの堆積量と湖底の酸化・還元性に関係しています.なお,底質採取時には水温・DO・塩分・pHプロファイルも同今回設定した調査地域の底質は,北部の潮通し付近の3地点を除いて泥質です.しかし,南部では農水省によって散布された土砂がかなり拡散していることが,今回の含砂率測定によって明らかになりました.表層黄褐色酸化層は,5月と12月ではほぼ全地点で見られ,厚さは13mmでしたが,9月の北部泥層ではほとんど見られず,表層は黒色でした.9月には,水深5m付近に塩分躍層が見られ,湖底水の溶存酸素が北部でほぼゼロになっていたことと良い相関を示しています.また,炭素・窒素・硫黄濃度は,それぞれ3%台,0.4%台および1%台の地点が多く,C/N比からみて秋にプランクトンの堆積量が増加したことをのぞけば,明瞭な季節変化は見られませんでした.その理由としては,水の変化に比べて泥中の元素濃度変化の速度が遅く,比較的長い期間の変化の平均的な影響が現れるためと考えられます.今後されに大きな酸化・還元特性の変化が生じた場合には,酸化的ならばC/S比が大きく,還元的ならばC/S比は小さい方向へ変動するものと考えられます.なお,砂が混入している泥では,炭素・窒素・硫黄濃度の評価が複雑になるため,今回は主に北部の砂の混入のない地点で検討を行っています.潮通し後の底質への影響評は,季節的な黄褐色酸化層の厚さ変化を考慮し,全体の傾向は底質の炭素・窒素・硫黄濃度で引き続き検討していく予定です.

 

 

 

 


本庄工区の水質変動特性

 

相崎守弘 (島根大学生物資源科学部)

 

 

中海、宍道湖の水質を決めるのは?

植物プランクトンの量はクロロフィル濃度で計ります。植物プランクトンの量が多くなると透明度が低くなり、種類によっては赤潮やアオコとなります。植物プランクトンの量は窒素やリンといった栄養塩の濃度で決まります。したがって、これらの水質項目の調査が重要になります。

  生物にとって、生きてゆくためには酸素が必要です。水中の酸素の量は空気中に比べて少ないので、生物の呼吸によってすぐになくなってしまいます。溶けている酸素が少なくなった水塊を貧酸素水塊と呼びます。水中の酸素は少なくなると大気からどんどん溶け込んできます。ですから、水の表面では酸素がなくなることはありません。その水がよく混ざれば酸素不足にはなりません。

 

貧酸素水塊の形成

 上の水と下の水がよく混ざれば貧酸素水塊はほとんどできません。貧酸素水塊は上の水と下の水が混ざらない時によくできます。上の水と下の水が混じり合わない別の水塊になっている現象を成層しているといいます。成層ができる原因としては表面が太陽によって温められ比重が軽くなって起きる温度成層があります。汽水域では底層に比重の重い海水が入り、上層に比重の軽い淡水がのる塩分成層が重要です。塩分成層は温度成層に比べ上下での比重差が大きいため、より上下混合が起きづらくなります。このような塩分成層ができると底層の酸素がなくなり貧酸素水塊ができやすくなります。

 

本庄工区の水質

 塩通しができる前の本庄工区は西部承水路を通って中海の上層水が出入りしている状態でした。ですから、塩分濃度が比較的安定していました。上で述べましたように塩分濃度があまり違わなければ、水はよく混ざり合います。本庄工区の6地点で水質を調べたところ、本庄町沖を除いてほとんど同じでした。また上層と下層もよく混ざり合っており、8月を除いて貧酸素水塊は見られませんでした。本庄町の沖合は他の地点より少し汚れた状態でした。

中海の上層水と比べると、窒素濃度は低くなっており本庄工区には浄化作用があると考えられました。逆にリンは濃度が上昇しており、汚濁源となっているようです。

 

塩通しの効果

 塩通しは上層2.5mの所にあります。したがって塩分濃度の高い海水の流入は無いものと予想されます。もし、塩分濃度の高い比重の重い海水が入ったら、塩分成層ができて貧酸素水塊ができやすくなったと考えられ、現状でよかったと思います。海水が入らないとしたら意味がないかといえば、塩通しができたことによって流れが変わりましたので、水産に対する流れの影響の評価はできるのではないかと思います。流れができることによってアサリなど二枚貝の生育環境はよくなる可能性が高いのです。したがって、塩通し後の調査としては流れの調査が重要です。流れの調査には特別な機械と調査が必要ですので農水省の予算を活用して調べてほしいと思います。

 

中海の貧酸素水塊の解消

 塩通しによる調査は漁業振興調査としては不十分なものです。中海の漁業振興には底層水の貧酸素化を防がなくてはなりません。そのために、本庄工区水域を活用することが考えられます。今の中海と本庄工区の立場を逆転させるのです。中浦水門の下段ゲートを閉め、比重の重い海水が中海に入らないようにします。森山堤防に水門を作り、海水は本庄工区へ入るようにします。本庄工区で水をよく混ぜ、上層水を中海に入れます。そうすれば、中海も本庄工区も貧酸素水塊はできづらくなるはずです。

 

 

 

 

 


中海本庄水域の「漁業実態調査」について

 

伊藤康宏 (生物資源科学部)

 

 

 96年8月の与党3党合意の「宍道湖・中海全域における水産振興について行う調査・検討」のうち「宍道湖・中海の漁業の実態調査」は現在どのような扱いになっているのであろうか。この実態調査は、とくに中海が本来的に有していた漁業生産力を把握し、水産振興の可能性を考える上でも重要なものである。この点に関して可能な限り漁業デ−タの収集・分析が不可欠であるのは言うまでもない。以下は、報告者が現時点で入手できた聞取り調査、文献調査内容について概略を述べる。

 これら調査は現状調査と歴史調査(とくに干拓前の実態把握)の2つがある。前者は統計調査、漁家調査といった現状の調査であるが、本趣旨からいうと「漁場環境評価メッシュ」調査(中海を1kmメッシュに組み、その漁業生産力を漁業地区・漁業種類・魚種毎の聞取りと漁獲デ−タ処理他)が適当と思われる(本庄地区で一部実施)。また、「潮通し調査」との関連では森山堤が1部開削した時期(1982年時)の実態(聞取り)調査や1987年(台風被害=堤防破壊)前後の八郎潟の漁業実態調査が必要であろう(未調査)。

干拓前の歴史調査(資料収集)に関しては、まず、古老から干拓前後の聞取り調査が挙げられる。これに関しては座談会形式で進められた鳥取の美しい中海を守る住民会議による住民環境アセスメント、「調べよう!みんなで中海」や戦前の食生活と農林水産業の生産活動を聞取りした農文協の『聞き書 日本の食生活全集』島根、鳥取版の中海沿岸地域の事例がある。今後はより聞取りデ−タを蓄積し、干拓前後の漁業の実態把握が必要である。

 一方、文献調査資料に関してはつぎのような資料(内容)がある。1.中海沿海の自治体史誌、2.『島根県漁業基本調査』(1914年)、3.『大根島の実態』(島根県、1955年)、4.『中海・宍道湖漁業実態調査報告書』(島根県、1957年)、5.『(八束村)農林漁業振興計画基礎調査(資料編)』(八束村、1959年)、6.関西学院大学地理研究会編『大根島』(1981年)、これらは「中海本庄工区月例勉強会報告」既報のため省略。このほかに7.『島根県水産試験場事業報告 大正9(1920)年度』(中海調査、赤潮被害が恒常化する以前の中海の漁況調査)、8.『中海調査』(浜田測候所、1935年、昭和初期に大発生した中海の赤潮の気象的調査)、これ以外にも戦前戦後の島根、鳥取両県水産試験場調査報告(カキ養殖調査他)がある。また、『中海干拓・淡水化に伴う魚族生態調査報告』(1962年、通称、宮地報告、魚類他の現存量調査)もある。

経年的に把握可能な漁業統計には、毎年、調査・公表される「島根農林水産統計年報」(中国四国農政局島根統計情報事務所、調査項目は、漁業種類別漁労体数・出漁日数・漁獲量等)と5年毎に調査・公表される「漁業センサス」(農林水産省統計情報部、漁業の「国勢調査」版にあたる基礎調査で、漁業生産構造や就業構造の把握を目的に実施)とがある。両方とも漁業地区(安来、東出雲、松江《本庄、大海崎、朝酌》、八束、森山)別に集計されているので、中海漁業を統計的に把握可能である。このほか魚種別漁獲量を示すデ−タは、管見の限りでは安来魚市場の種別漁獲量の推移(1962年〜74年)、安来の個人桝網の魚種別漁獲量の推移(1967年〜79年)、本庄地区桝網の魚種別漁獲量(1963年度)等に限定されるが、これらから中海の水産資源の特徴、その変遷を概観することができよう。