海洋の流動シミュレーション
 −日本海モデルと中海潮通しパイプ−


北陸先端科学技術大学院大学
上野博芳氏

日時: 5月15日(金) 17:30〜19:00
場所: 松江市西川津町1060,島根大学汽水域研究センター


昨年の日本海の重油流出は大きな社会的な問題となりましたが,同氏らのグループはいちはやくその影響予測のための漂流数値解析の研究に取り組まれました.その紹介とともに現在進められている本庄工区のパイプによる潮通し実験の流れの影響予測についても,それがどのような手法にもとづいているのかについて解説していただく予定です.



主催: 汽水域研究センター
連絡先: 0852-32-6464(徳岡)



当日配布された資料です.



本庄工区のパイプによる潮通し実験の流れの影響予測の手法(PDFファイル)

日本海の重油流出の影響予測のための漂流数値解析(ポストスクリプトファイル)




Date: Sat, 16 May 98 16:21:36 +0900
From: Fumito Koike <koike@life.shimane-u.ac.jp>
To: Multiple recipients of <honjou@ecosys.soc.shimane-u.ac.jp>
Subject: [honjou] 水流勉強会の報告
 
 
みなさま
 
 
上野さん(北陸先端科学技術大学院大学)の水流についての勉強会(汽水域研究センター)に出席してきました.
 中海・宍道湖汽水域のように複雑な形の汽水域の水流や水の混合の研究は,まだぜんぜん研究途中なんだなあ,という印象を強くもちました.水理学というのは昔に完成されて枯れた分野だと思っていたのですが,実はそうではないようです.
 
 
[汽水湖の水の出入りを推定する方法]
<アプローチ1,簡単な方法(水産土木学の教科書より)>
1.外の海の潮の干満による水位の変動の大きさと,海と
  汽水湖を結ぶ水路の水流の抵抗から,汽水湖側の水面
  の変動の大きさを推定し,1回の干潮と満潮の間に水
  路を通って出入りする水量を推定する.
2.計算が簡単で,電卓があれば簡単に計算できる.
3.出入りした水が汽水湖内と海の中でそれぞれまわりの
  水と混じって行く過程が計算できないので,どれくら
  いの期間で汽水湖の水が入れ替わるのか(ターンオー
  バー)がわからない.
4.大きな汽水湖では干満に応じて湖内の水面に勾配が生
  じ,湖内でも場所によって干潮・満潮の時間に差が生
  ずる.しかしここではこのことは考慮されていない.
5.水路が2つなど複雑な形状の水域では計算が難しくな
  る.
 
<アプローチ2,詳しい方法>
1.湖や海を3次元の格子で切り,それぞれの格子での水面
  の傾きから,その瞬間の水の流れを計算する.水は高い
  ほうから低いほうに流れる(惰性で流れる影響などもあ
  るが).そのとき格子から流れ出た量と,まわりの格子
  からそこに流れ込んできた水量から,次の瞬間のその格
  子での水面の高さを求める.周囲の格子の水面の高さか
  ら,その格子での水面の傾きを計算し,次の瞬間の流れ
  を計算する.これを延々と繰り返す.
2.建前上は,どんな地形でもできるし,現実に非常に近い
  計算ができる可能性がある,はず.
3.計算に時間がかかるため,コンピュータが必要.計算に
  使うためのデータの収集も必要.お金がかかる.
4.モデルを複雑にすると計算時間が非常にかかるので,現
  実の様子をすべて組み込むことはできない.どこまで組
  み込んで,どこから単純化しても良いのかの判断が難し
  い(複雑な構造をした汽水域では特にたいへんそう).
5.現在の技術水準では,いまだに現実の流れを十分再現で
  きていない.水位や水流の実測と併用する必要がある.
 
 
 本庄工区も含めた中海・宍道湖の漁業振興を考えるには,干潮と満潮の影響や,水路の出入り口での水の混合過程なども考慮した短い時間スケールの<アプローチ2>に相当するモデルがどうしても欲しいところです.(しかし,計算時間的に現在のコンピュータで実現可能なのでしょうか.上野さんの日本海モデルもクレイ社の並列計算機で30時間くらいの計算量だったそうです.潮汐を入れて時間間隔が短くなり,複雑な地形で空間格子が細かくなってしまう中海・宍道湖水域のモデルはかなり大変そうです)
 
 かつて奥田先生が行ったシミュレーションは,当時としては最先端のものだったのですが,塩水と淡水の重さの差によって生ずるゆっくりした流れだけを考えていたために潮の干満の影響が含まれていなかったり,それにともなう出入り口での水の混合について考慮されていなかったりするために,現在の研究水準からは不十分なものだそうです.
 
 
 
 
Fumito Koike
Department of Biological Science
Faculty of Life & Environmental Science
Shimane University, Matsue 690, Japan
Voice +81-852-32-6440
Fax. +81-852-32-6449
koike@life.shimane-u.ac.jp