第7回 中海・本庄工区月例勉強会
日本最大の汽水域宍道湖中海では、国の天然記念物のマガン、コクガン、オジロワシをはじめたくさんの鳥類が飛来していることが日本や鳥の会島根県支部・鳥取県支部の調査によって確認されています。今後、本庄工区の干拓が、どのような影響を水鳥に与えるかを水鳥の生態や過去の干拓より考えます。
鳥の特徴は、その羽根による移動能力の大きさです。鳥の移動力は、大変大きなもので、シベリア北部のツンドラ地帯で繁殖しオースラリアで越冬しています。このために、日本とオーストラリとの間では日豪渡り鳥条約(昭和58年)と言う保護に関する条約が結ばれていいるほどです。これだけ大きな移動を一年という短いサイクルでおこなっている陸上生物は、他に考えられません。
要旨:
水鳥は世界を巡る
これらの鳥達が生きていくためには、繁殖地(夏期)、冬を過ごす越冬地、またそれをつなぐ移動のための環境を国際的に保全していく必要があります。
水鳥の採餌法には、潜って餌を取るもの・穴に嘴を入れるもの・水をこしとるものなど様々な採餌法があり、水鳥の嘴の形からもその餌を類推することが出来ます。このように水鳥達は、プランクトンから植物、魚、水生動物まで様々なものを食べるように特殊化しているため、水鳥には様々な水辺環境とそこに住む多様な生き物が必要になってきます。特に、生産性が高く、非潜水性の水鳥にとって餌の取りやすい、水際から水深1mぐらいまでの水面の確保が重要な課題になります。
中海と宍道湖で鳥相の違いとして大きく注目されるのは、貝を食べるキンクロハジロとホシハジロと言う潜水性のカモの分布の違いです(日本野鳥の会島根県支部調べより)。宍道湖と中海では、塩分濃度のちがいにより生息する貝の優占種が異なっており、宍道湖ではシジミ、中海では、ややシジミより形の大きいホトトギスガイです。つまり、キンクロハジロよりやや大型のホシハジロがやや大型の貝を補食するように中海に集まり、小型のキンクロハジロは、シジミを補食しに宍道湖に集まっているのではないか?と言うものです。ただどちらの鳥も、両方の貝を食べます。
宍道湖は、県設特別鳥獣保護区、中海は国設鳥獣保護区に指定されています。これは、指定後完成した中海の干拓地もこの指定に含まれています。ただ、本庄工区だけがこの指定からはずされており、猟期に当たる11月15日から翌年の2月15日には、カモをはじめとする狩猟対象鳥がハンティングできます。このため現在の本庄工区の鳥相は、水鳥がもっと利用できる余地がのこっているとおもわれます。
鳥にとつて食料と同時に必要となってくるのが、ネグラです。鳥は繁殖期以外は、集団でネグラで寝ています。セキレイは橋の下、ツバメにおいては広大なヨシ帯、カモ類にとっては広い水面で集まって寝ています。寝る時間は、昼であったり、夜であったりしますが、環境がその鳥のネグラに適さなくなったり、危険が多くなったところは放棄します。
採餌法のいろいろ
餌による棲み分け(?)(三瓶自然館・佐藤仁志)私信
狩猟区の本庄工区と鳥獣保護区の中海・宍道湖
ネグラの水面の必要性
ガンカモ類の水鳥は、広くて浅い水面をネグラとしており、本庄工区が鳥獣保護区になればネグラとして利用するものと思います。
干拓工事は、いきなり水鳥の生息域を狭めるだけの意味をもっものではありません。他の干拓地の例では、干拓工事開始によって出来る浅水域(1m以下)の水鳥の採餌可能な広大な水面と干潟ができ餌場となるほか、水が引いた湿地には湿性植物が生え水鳥達の繁殖地になります。
干拓開始早々、水鳥のパラダイス。その後は、・・・(他の中海干拓地より)
中海干拓事業は、本庄工区以外にも揖屋工区、島田工区、彦名工区等の先発工区があります。現在中海は、90%以上が人工護岸となり水鳥達が安心して暮らせる浅い水面が少なくなったので、干拓途中に出来る水面は大変貴重なものとなりました。特に、コハクチョウは、この水面をネグラとして、干拓工事が始まるとその新たな水面を転々としていきました。しかし干拓完成後は、近代的乾田と人工護岸になるために鳥相は貧弱になります。
島根県安来工区の「中海ふれあい公園」予定地.遊休干拓地を公園にする計画が進んでいる.
第16回 汽水域懇談会 「汽水湖に生息するカモの特徴と、物質循環に果たす役割について」 山階鳥類研究所 岡 奈理子
日本生態学会中四国地区会会報 No.53 1995 「 人工衛星を利用したコハクチョウの行動圏調査」 米子水鳥公園 神谷要
「出雲の白鳥」 門脇 益一 たたら書房
参考文献等