第2回 中海・本庄工区月例勉強会



中海と本庄工区の水質の現状


清家 泰 (島根大学総合理工学部助教授)

日時:7月5日金曜日 午後6時より
場所:総合理工学部1階11番教室



 本庄工区内の水質に関する報告例はほとんどなく、現在の水質の状態がどうであるのかについて全く知られていないのが現状といえる。我々(物質科学科環境分析化学研究室)も、中海の本庄工区以外の水域については約20年にわたる継続的な調査データを蓄積しているのに対し、本庄工区内については僅か4年間足らず(1992年8月〜1996年6月)のデータを持っているに過ぎない。

 本庄工区は、1978年に大海崎堤防が、1981年に森山堤防がそれぞれ建設されて閉鎖的水域となった。その後、工区内の湖水の交換は西部承水路に設けられた2ヶ所の小さな出入口のみで行われることとなり、他水域に比べ停滞性の強い水域となったわけである。そのため閉鎖水域にありがちな水質汚濁の進行が懸念されてきた。閉鎖水域となって約15年経過したわけであるが、ここ数年のデータを解析してみると、工区内の湖水の透明度は、意外にも水質の最も良好な境水道に匹敵するくらい高く、しかも3mを越えるような高い透明度の観察回数(7回)は境水道(4回)を上回った。また、高い透明度の観察時には全リン、全窒素、COD濃度の何れも低いレベルにあった。

 以上のような事実を踏まえ、限られたデータからではあるが、ここで本庄工区の透明度が高い理由について考えてみたい。まず第一に、3mを越えるような透明度が観察されたときには塩分が比較的高いことから、@栄養塩の少ない新鮮な海水の流入による寄与が挙げられる。次に、中海湖心はもとより境水道よりも高い透明度がしばしば観察されることから、A湖水が遡上する際に承水路がフィルターの役目を果たし寄与している可能性も考えられる。さらに、本庄工区内は、人的影響の指標である大腸菌が検出すらされないことが多く、最も良好な水域であったことから、B周囲から本水域への直接的な栄養塩等の流入負荷は小さいものと考えられ、このことが高い透明度を持つ大きな要因であると推察される。

 しかし、ここ4年間で赤潮が2度(1994年3月と1995年3月)発生し、特に1995年3月(Chl-a,175μg/l)には大規模な赤潮となり本庄工区内全域に広がった。その2度の赤潮における共通点は、何れも3月に発生したこと、塩分の低下後に発生したことが挙げられる。その赤潮発生メカニズムの詳細は明らかでないが、この本庄工区は、条件が整えば赤潮が発生しやすいという閉鎖水域であるがゆえの宿命を負っているものと考えられる。

 また興味深いことに、本庄工区の塩分変動は、宍道湖に似た変動パターンを示し、中海湖心に代表される中海水域の塩分変動に対して遅れが生じることが認められた。このことは、新鮮な海水(貧栄養)が一度本庄工区内に入るとしばらくその状態が保たれることを意味し、高い透明度の観察回数が境水道を上回った一要因と考えられる。しかしながら、逆に栄養塩に富んだ湖水が流入した場合にもその状態が持続されやすいことをも示唆しており、赤潮を誘発する可能性もはらんでいる。しかし、今のところ、周囲からの直接的な栄養塩負荷が小さいために良好な水質を維持できているものと推察される。