第1回 中海・本庄工区月例勉強会

本庄工区と中海の汽水性水草と海藻の分布


国井秀伸(島根大学汽水域研究センター助教授)

日時:6月20日木曜日 午後6時より
場所:汽水域研究センター3階会議室

水草の多くは維管束の発達した水生植物であり、このうち海に生育するものは海草と呼ばれる。中海の岩礁でよく見られるアオサやオゴノリなどの植物は維管束が未発達な分類群であり、海草と区別されて海藻と呼ばれる。音読みではどちらも「かいそう」となり紛らわしいので、海草を「うみくさ」と呼ぶこともある。

汽水に見られる水草の数は少なく、日本全国で7種ほどが知られているに過ぎない。このうち2種は北海道にのみ産するので、おおよそ5種が本州で見られることになる。宍道湖・中海水系には、これら汽水産の水草のうち4種(カワツルモ、イトクズモ、リュウノヒゲモ、コアマモ)が見られ、まさに汽水産の水草を研究する絶好の場所と言える。これら4種のうちカワツルモとイトクズモは日本版レッドデータブックで危急種とされている。前者は本庄工区を囲む承水路に見られ、後者は宍道湖と日本海を結ぶ佐陀川および米子市の水鳥公園内の池での生育が確認されている。ちなみに、リュウノヒゲモは水鳥公園内の池に多く、またコアマモは大橋川の全域と中海の所々に生育している。

宍道湖・中海では海藻の分布に関する調査がこれまでに何度か行われている。秋山(1977)によれば塩分の低下に従って大型の海産種から広塩性種、汽水種そして淡水藻へと植生が変化してゆくことが報告されている。この分布パターンは現在でも変わりはない。最近の中海での海藻調査は、底質改善を目的とした事業の基礎資料を得るため、昨年6月から島根県水産試験場によって本庄工区を除く水域で行われた。確認された種は紅藻類のオゴノリ、カタノリ、褐藻類のウミトラノオ、フクロフノリ、緑藻類のアナアオサ、ミルなど16種(コアマモを含む)であった。興味深いことは、オゴノリのように人間が直接利用することのないウミトラノオ表面に多くの生物が付着していることである(藻体100g(湿重)当たり節足動物のワレカラ類が16,215個体、ヨコエビ類が137個体)。これら付着生物は食物網を通していずれ高次の消費者の餌となり、水域の生産性を高めるとともに、有機物や窒素、リンの系外排除に間接的に寄与すると考えられる。本庄工区にはこのウミトラノオが多く生育していることが観察されている。

これら海藻や海草以外にも、魚介類や鳥類にとって本庄工区が貴重な場を提供していると言われている。干陸の是非を問う前に、水質の調査だけでなく、生物相や生態系に関する調査をおこなうべきと考える。

 
 

カワツルモ Ruppia maritima L. ヒルムシロ科
汽水にしかはえられない水草で絶滅危急種.中海・宍道湖汽水域では弁慶島や本庄港周辺の中海の承水路などで確認されている.
右の写真は本庄工区内の弁慶島での自生地の状況(1996年9月,源耕一撮影).

 

リュウノヒゲモ Potamogeton pectinatus L. ヒルムシロ科
汽水にしかはえられない水草.中海・宍道湖汽水域では米子水鳥公園でみられる.写真は広島県産.

 

イトクズモ Zannichellia palustris L. イトクズモ科
汽水にしかはえられない水草で絶滅危急種.中海・宍道湖汽水域では米子水鳥公園と佐陀川で発見された.写真は岡山県産.

 

コアマモ Zostera japonica L. アマモ科
海にはえるが汽水域にまで分布する.中海・宍道湖汽水域では大橋川と中海に分布する.大橋川では特に多いが,これがはえているところにはシジミもたくさん住んでいる.