市民参加による原町市の植物調査

「野馬原の植物を探す」

 

 

主催:原町環境調和まちづくり研究会

講師:小池 文人(横浜国立大学助教授)

日 時:

2001年9月15日(土)

10:00-

集合・説明

 

-17:00

野外調査

16日(日)

10:00-12:00

野外調査

 

13:00-17:00

地理情報ソフトで解析・地図化

集合場所:ひばり生涯学習センター(原町市本陣前三丁目60―2)

持ち物:お弁当、水筒、帽子、筆記用具

内 容: 

 かつて野馬追原に生えていたはずの植物(秋の花)が今も生えている場所を探します。探す地域は旧野馬原一帯で、旧6号線沿いの市街地、野馬追いの祭場、夜の森公園、上町の湿地、旧野馬原の畑地、水無川などが含まれます。またコンピュータと地理情報ソフトを使って植物の分布の解析や地図化も試みます。

参加者:18

 

 

<原町市について>

 原町市は相馬野馬追祭(国定重要無形民族文化財)で有名であり,かつては野馬を放牧する草原(野馬原)が広がっていた.その草原のなごりは明治時代の地形図にも見ることができる(図3).このあたりは戦時中は飛行場になり,また戦後は畑になったが,最近は宅地が広がってきた(http://www.city.haramachi.fukushima.jp/nomaoi/nomaoi.html).

 草原では森林より水の流出が多いためか,阿蘇山の草千里や三瓶山の姫逃池など,有名な草原は湿原や池をともなうことが多いようです.

 

 

<対象種の選択>

 かつての草原と湿原に生育していたであろう植物を指標として,野馬原の草原の遺存断片を探す.目的植生の選択への貢献度が高い種であって,植物に詳しくない市民にもわかりやすい種を選択した.ヤマラッキョウは乾いた林縁や草原にも生育するが,この地方では湿原で多く見られる.重要度の計算方法は以下の文書を参照.<指標種による評価と指標種選択(PDF)

草原種

重要度

湿原種

重要度

ナンテンハギ

5.18

ヒメシロネ

3.68

ワレモコウ

3.74

サワギキョウ

3.60

ツリガネニンジン

3.38

アブラガヤ

3.22

ノハラアザミ

2.72

ヤマラッキョウ

2.39

(当日配布した資料の値の対数を計算したものです.種間の大小関係は変わりませんが,地点の評価値が変わってきます.)

 

 

<野外調査>

 都市計画図IX-DG94-4に相当する東西2km×南北1.5kmの範囲を対象とした.これを500m×500mの区画に区切り,区画内を1.5時間かけて歩き回り対象種を都市計画図(1:2500)のうえにマッピングした.点在するものは点で,面的に広がっている場合は領域で(個体間隔10m以内程度),畦畔のように線的な場合は線で地図上に記入した.

 ひとりの参加者が,自然が残っている可能性の高い地域と市街地の両方を経験できるように班ごとの調査地域を割り振った.

 

 

<データの解析>

 地理情報システムの「みんなでGIS」を利用した(http://vege1.kan.ynu.ac.jp/minnagis/).また,座標系は都市計画図のものをそのまま利用した.作業の内容は以下のとおり.

1.        地図画像を背景にした植物の分布のベクトル図形(点,線,多角形)での入力(図1)

2.        評価用の100m×100mのメッシュの作製

3.        評価メッシュごとの,種ごとの出現数の集計

4.        Excelをつかったメッシュの重要度の計算(種の重要度の合計値)

5.        都市計画図を背景にした重要度マップの作製(図2)

 

 

<結果>

 草原の植物は野馬追祭の祭場の観覧席に多く分布している.また上町の湿地には湿原植物が多く残っていて,その周辺には草原の植物も点在している.明治41年の地図にある3つの湿地のうち唯一残っているのが上町の湿地である(図3).

 

図1.マッピングの結果.紫色が草原種の分布.青色は湿原種の分布.地図の右下は野馬追祭場で左上が県立原町高校.

 

図2.完成した評価地図.紫色の濃い部分は草原種が集中的に分布している.青い部分は湿原種(貧栄養な低層湿原)が集中している.

 

図3.明治41年(1908年)の地図(大日本帝国測量部1:50000地形図,「原町」)の上に示した現在の植物の分布.紫色が現在の草原種の分布で青色は現在の湿原種の分布.今回の調査領域を太枠で示す.明治41年の湿地を緑色で,明治41年の草地を黄色で示す.当時は湿地のまわりに草地がひろがっていて,雲雀原には芝地(旧祭場)や雑木林,桑畑などもみられる.ただし山地の部分の土地利用はあまり詳しくわからない.草原種は広葉樹林とも相性がよいのかも知れない.

 

 

<感想>

 どこにでも生えているとみんなが思っている植物ばかりですが,実際には市街地や畑を探してもどこにも見あたりません.植物が生えているところだけを見に行くのでなく,何も見つからないところを時間をかけて歩いてみることは,生えていないことを示すデータとしても大切ですが,自然の現状を深く理解するためにも大切なことだろうと思います.私も野馬追祭場の観覧席のツリガネニンジンが輝いて見えました.雨の中で調査につきあっていただいた市民のみなさんも,サポートしていただいたスタッフのみなさんもご苦労様でした.

 

 

 

文責:小池

2001920日)

 

 

追記2002年5月13日)

<湿地の保全のために大切な地域>

湿地を保全するには,湿地そのものだけでなく集水域を大切にする必要がある.集水域が住宅地になって雨が地下に浸透しなくなれば湿地が干上がる可能性もある.上町湿地では,笹部川の西側一帯が集水域になっていて,その周辺は宅地化がやや遅れていて水田も広がっているが,近年は埋め立てによる宅地造成も行われている.なお,ほんの少しの高低差で笹部川の水が流れ込むので,かつてはこの川が湿地に流れ込んでいた時代があったかもしれない.また,笹部川から浸透した地下水が湿地に入っている可能性もあるかもしれない.

図4.上町湿地の集水域の重要度.(あるセル(20m×20m)を通過する水のうち湿地に流入する水量)/(湿地の全受水量) の値を示す.青色が濃い場所ほど重要度が高い.