野生イノシシ個体群の豚熱(CSF豚コレラ)

 

英名: Swine fever, Classical swine fever

病原体: Classical swine fever virus

原産地・生態:  北アメリカやオーストラリアなどを除く世界各地に分布
家畜の豚(イノシシと同種)と共通の感染症でヒトには感染しない.イノシシどうしの接触がなくてもウイルスが付着したものから感染が拡大する.
 野生イノシシは温暖地の森林と農村・都市の中間的な地域で密度が高く,東北地方北部では絶滅していたが,最近になって再び分布拡大し,現時点で北海道を除く全都道府県に生息する.

 

情報源

農水省: 家畜ブタの豚熱(CSF豚コレラ)

http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/

環境省: 野生イノシシの分布

https://www.env.go.jp/press/files/jp/26915.pdf

ロードキルによるイノシシなどの密度分布

 

将来予測

 

 

 

 

 

標準偏差361

 

色の濃いところで早くから侵入すると予測された.実際の時期は上右図の分布を標準偏差で重畳した幅の広いものになる.過去の多くの外来種の分布拡大データからパターンが類似したものを合成している.外来種に加えて2019731日予測より岐阜県から,2019920日より陸続きの全ての都道府県からの100km以内の地理的距離も教師データの一つとして投入した.相対時期をもとにした侵入年月日の推定は,2020313日より対象期間中の各日の到達/未達をデータとしてスケーリングのパラメーターと標準偏差を最尤推定している.海外などからの貨物の移動による長距離移動と,国内の貨物による移動,近隣への自然な分布拡大をともに含む.野生イノシシが生息しない北海道を除く地域を予測対象とする. ひとつの方法による予測であり誤差を含む.

 

 

2022825日の予測.赤文字は既侵入.侵入時期の相対値を示す.

都道府県

予測年

都道府県

予測年

都道府県

予測年

愛知

2018

茨城

2020

愛媛

2022

静岡

2019

山梨

2020

高知

2022

大阪

2019

群馬

2020

秋田

2023

長野

2019

東京

2021

大分

2023

岐阜

2019

新潟

2021

青森

2023

三重

2019

石川

2021

島根

2023

滋賀

2019

福島

2021

鳥取

2023

神奈川

2020

富山

2021

宮崎

2023

兵庫

2020

宮城

2021

香川

2024

京都

2020

岩手

2021

佐賀

2024

千葉

2020

岡山

2021

熊本

2024

奈良

2020

福岡

2021

長崎

2024

和歌山

2020

山形

2021

沖縄

2024

埼玉

2020

徳島

2022

鹿児島

2024

栃木

2020

広島

2022

北海道

宿主不在

福井

2020

山口

2022

 

 

 

過去の予測

 

 

概 況

 

1.山口県から岩手県に至る30都府県で発見され,自然の分布拡大が進行中である.

2.主にイノシシの行動に伴って分布拡大している.一部の分布の先端では自然の分布拡大でなく人為(非意図的/意図的)によるものである可能性がある.

 

岐阜県からの距離依存的な分布拡大を仮定した予測

 

 

距離依存的な分布拡大と過去の外来生物の拡大を両方利用した予測

 

 

3.家畜ブタにおいては移送による近県の養豚場内での感染や,遠隔地での感染が見られたが,そこからの野外のイノシシへの拡大はない.

4.これから数年程度以内で全国に蔓延する可能性がある.

 

 

 

 

注意・警戒すべきこと

 

1.現在の分布域の周辺で,ノシシの行動に伴う分布拡大への対策が必要である.

 

2.現在の分布域の周辺で,人間による汚染物の持ち運びによる分布拡大を警戒する必要がある.家畜ブタの移送による近県への感染拡大では,養豚場外の野生イノシシ個体群への感染を避けなければならない.

 

3.現在は分布していない地域であっても,海外や国内の物資の移動等による長距離分布拡大に注意が必要である.九州北部などでも長距離分布拡大に対応した死亡野生個体のモニタリングを行っても良いかもしれない.

 

4.積極的に捕獲するモニタリング方法や,終息させるため感染症についてR0<1とする方法について海外での研究もある.

Schulz, K. et al. (2017) Surveillance strategies for Classical Swine Fever in wild boar – a comprehensive evaluation study to ensure powerful surveillance. Scientific Reports 7: 43871. https://doi.org/10.1038/srep43871

Moennig V (2015) The control of classical swine fever in wild boar. Frontiers in Microbiology 6:1211. https://doi.org/10.3389/fmicb.2015.01211

(個体群の実際の地理空間での感染動態モデルによる対策のほか,野生イノシシの耐病性系統があれば家畜ブタの耐病性育種が可能になるかもしれない)

 

掲載日:201926日,2022825日改訂

 

計算方法: 

・これまで知られている外来生物の分布拡大パターンの中から初期の分布拡大パターンが野生イノシシの豚コレラに類似した種を抽出し,これを合成することで予測を行った.外来種に加えて2019731日予測より岐阜県からの地理的距離も教師データの一つとして投入した.
・計算には「みんなでGISの応用プログラム「外来生物侵入順序解析」を使用した.詳細はKoike & Morimoto 2018参照.

予測計算,種特性の記載,概況,注意・警戒事項の記載者:  小池文人(横浜国大),既分布の外来生物の分布拡大データは森本信生(畜産草地研究所),および昆虫情報処理研究会のゴケグモ類の情報センター,厚生労働省による過去の新型インフルエンザ情報(過去のまとめ検証用),環境省のヒアリに関する諸情報についてなどによる.

 

 

イノシシの豚熱(CSF豚コレラ)に関する最近の分布状況のまとめ

農水省:http://www.maff.go.jp/j/syouan/douei/csf/

 

 

文献:

Koike, F. and Morimoto, N. 2018. Supervised forecasting of the range expansion of novel non-indigenous organisms: alien pest organisms and the 2009 H1N1 flu pandemic. Global Ecology and Biogeography 27:991–1000. https://doi.org/10.1111/geb.12754

Schulz, K. et al. 2017. Surveillance strategies for Classical Swine Fever in wild boar – a comprehensive evaluation study to ensure powerful surveillance. Scientific Reports 7: 43871. https://doi.org/10.1038/srep43871

Moennig V 2015. The control of classical swine fever in wild boar. Frontiers in Microbiology 6:1211. https://doi.org/10.3389/fmicb.2015.01211

Tatewaki, T. and Koike, F. 2018. Synoptic scale mammal density index map based on roadkill records. Ecological Indicators 85: 468-478. https://doi.org/10.1016/j.ecolind.2017.10.056

 

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