ヒアリ

英名: fire ant, red imported fire antなど

学名: Solenopsis invicta

原産地:  南アメリカ原産
北アメリカ,中国南部などに野生化,アジア太平洋地域でも発見されている.野生化が可能な北限はおよそ常緑広葉樹の分布域と一致している.

 

生態

 芝生などに土壌が出たかたちの巣をつくる小型のアリ.毒針で刺されると死亡することがある.野生化した場合は芝生の上に普通にみられるようになる可能性がある.

 

情報源

環境省: 特定外来生物ヒアリに関する情報

http://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/hiari.html

 

CABI Solenopsis invicta (red imported fire ant)

https://www.cabi.org/isc/datasheet/50569

 

Wikipedia: 様々な情報Red imported fire ant

https://en.wikipedia.org/wiki/Red_imported_fire_ant

 

USDA: アメリカでの気候による潜在的分布域

 

 

将来予測

 

 

野生化コロニーの分布拡大予測.色の濃いところで早くから侵入すると予測された.相対的な侵入時期の早さのみを予測し,侵入年は予測していない.

 

過去の多くの外来種の分布拡大データからパターンが類似したものを合成している.海外などからの貨物の移動による長距離移動と,国内の貨物による移動,近隣への自然な分布拡大をともに含む.

 

分布域は熱帯を好むが温度0度程度まで耐えられる可能性があるため(CABI),月最低気温0度以下の地域は図から除いている.アメリカ合衆国の予測では北限はほぼ常緑広葉樹林の分布域に相当する.

 

 

2021914日に予測した侵入時期) 赤文字は既分布・野生化疑い.コロニーと野生化の青文字は最寒月平均気温が0度以下.

現在も存続している野生化・野生化疑い地域

 

野生化コロニーの発見

 

個体や集団の発見

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

 

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

 

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

都道府県

予測(相対値)

東京

0

滋賀

41.6

青森

75.2

 

愛知

0

奈良

39.6

長崎

67.2

 

千葉

0

三重

38.3

沖縄

66.3

大阪

0.2

広島

41.7

熊本

78

 

東京

3.6

岐阜

39.8

福島

67.3

 

愛知

0.3

和歌山

41.1

鹿児島

66.9

千葉

3.4

群馬

46

福井

78.3

 

大阪

3.6

三重

43.2

岩手

70.5

 

大阪

1

岐阜

45.1

石川

67.3

愛知

6

新潟

46.4

沖縄

80.8

 

千葉

4.6

和歌山

43.2

宮城

71.7

 

兵庫

6.6

長野

46.9

岩手

71.2

神奈川

7.9

岐阜

51.7

宮崎

81.4

 

神奈川

6.1

北海道

43.4

徳島

75.5

 

東京

7.6

新潟

47.7

香川

72.7

兵庫

12.5

和歌山

56.4

高知

82.5

 

静岡

21

茨城

44.3

鹿児島

76.9

 

神奈川

8

奈良

49.6

徳島

73.6

埼玉

14.9

奈良

56.6

香川

84.9

 

兵庫

22.5

山梨

52.9

岡山

77.7

 

大分

21.8

山口

49.7

岡山

74.8

静岡

25.8

福島

58.7

徳島

85.4

 

福岡

25.1

愛媛

53.1

佐賀

77.8

 

埼玉

23.6

愛媛

51.2

佐賀

76.1

北海道

29.6

宮城

58.8

富山

85.4

 

広島

28.5

沖縄

54.4

福井

84.2

 

福岡

24.7

群馬

54

福井

79.5

栃木

31.1

石川

59.1

山形

86.9

 

埼玉

32

新潟

54.5

秋田

84.3

 

静岡

27.2

高知

59.1

青森

82.6

大分

33.9

山梨

60.1

長崎

87.6

 

滋賀

32.7

群馬

57.7

青森

88.5

 

京都

29.9

熊本

59.8

秋田

86.3

福岡

35.4

愛媛

60.5

鹿児島

91.7

 

大分

32.9

高知

59.4

島根

90.9

 

茨城

32.4

宮城

63.5

富山

86.4

茨城

36.4

岩手

61.3

島根

94.3

 

長野

33.2

宮崎

60.2

富山

92

 

北海道

33.6

宮崎

63.6

島根

92.7

三重

38.8

岡山

62.8

佐賀

97.4

 

京都

33.4

石川

61.7

山形

96.7

 

栃木

36.3

福島

64.6

山形

95.9

京都

39.2

山口

63.6

鳥取

100

 

栃木

36.6

香川

65.5

鳥取

100

 

滋賀

36.6

長崎

64.8

鳥取

100

長野

39.4

秋田

73.6

 

 

 

山口

37.9

熊本

66.2

 

 

 

広島

38.1

山梨

65.8

 

 

 

 

ここでの基準

個体や集団の発見

・生存する個体や屋外で生存していたと思われる個体が発見された場合

 

野生化コロニー発見

・地面に卵や幼虫を含むコロニーがあった場合

・トラップや目視調査により同一地点で複数回の確認があった場合は初回を侵入時期とする

 

現在も存続している野生化コロニーと野生化疑い地域

・野生化コロニーが複数年続けて確認されている場合

・生活環を全うした可能性がある野生化コロニーが発見され,個体群が野生化したと仮定したとき根絶が証明できない状態(疑い)

 

 

過去の予測

 

 

 

概 況

 

1.全国数カ所で野生化コロニーが発見されたほか,九州北部から関東に至る太平洋ベルトのメガロポリスにおける港湾や,港湾から離れた周辺の県における貨物搬入先などで個体が発見されている.

2.有翅女王多数や幼虫を含むコロニーが発見されている.個体群が野生化した疑い例が東京と大阪にみられる.

 

3.現在のところ日本での物資への混入も含めた総合的な分布拡大速度は不明である.アメリカ合衆国では1933年-1945年頃に南東部に侵入し大規模な対策がとられたが,ゆっくり分布拡大中であり1998年には西海岸のカリフォルニアに侵入した.

 

4.日本においても今後100年を超える時間スケールで防疫活動を継続することになると考えられる.海外での蔓延の進行により侵入圧が上昇してゆくと予想される.

 

 

 

注意・警戒すべきこと

 

1.全体としては海外に由来する導入初期のコロニー形成を警戒すべきだが,一部の地域では自然の分布拡大も想定した警戒が行われている.

 

2.海外から新たに持ち込まれる個体に関しては,太平洋ベルトのメガロポリスの港湾では継続的な発見が予想される.貨物やコンテナ等の搬入先である周辺の県などにおいても,主要な港湾より頻度は高くないが発見される可能性がある.
 継続的な努力による早期発見・早期防除により,飛び火状に侵入した個体群を根絶させ,分布拡大を遅らせることが重要である.台湾にはアメリカから複数回侵入していることが明らかになっており(Ascunce et al 2011),アジアやアメリカからの新たな侵入が継続することが予想される.
 20187月にはアメリカ発の航空貨物から発見された.探索対象を中国からの海上コンテナだけでなく,他の発送・経由地や貨物形態に広げる必要がある.

 

3.野生化コロニーに関しては,これまでに発見された地点のほか,コンテナ等からの発見件数が多い地域では探索努力をかけるなどの警戒が望ましい.

 

4.港湾以外での貨物搬入先でも発見されている.野生化コロニー周辺を含めて長期継続的で広範な探索には市民による発見が不可欠となるため,各市区町村に1名ずつヒアリの同定と対策が可能な自治体職員を養成・配置し,住民からの同定要請に応え,地域の分布状況を継続的に把握しながら広域で情報を共有するような体制の構築が必要かもしれない.このような体制づくりを優先的に行う地域の順位づけには,本ページのような情報を利用することができる.

 

 

 

掲載日:2017619日,2021914日改訂

 

計算方法: 

・これまで知られている外来生物の分布拡大パターンの中から初期の分布拡大パターンがヒアリに類似した種を抽出し,これを合成することで予測を行った.
・計算には「みんなでGISの応用プログラム「外来生物侵入順序解析」を使用した.詳細はKoike & Morimoto 2018参照.

・「個体や集団の発見」および「野生化コロニーの発見」では,これまでに侵入したさまざまな外来生物の都道府県ごとの侵入時期を学習データに使用.

・「野生化・野生化疑い地域」は東京都からの距離とヒアリの個体や集団の発見時期,これまでに侵入したさまざまな外来生物の都道府県ごとの侵入時期を学習データに使用.

予測計算,種特性の記載,概況,注意・警戒事項の記載者:  小池文人(横浜国大),既分布の外来生物の分布拡大データは森本信生(畜産草地研究所),および昆虫情報処理研究会のゴケグモ類の情報センター,厚生労働省による過去の新型インフルエンザ情報(過去のまとめ検証用)などによる.

 

 

現在の分布状況のまとめ:

環境省:ヒアリに関する諸情報についてhttp://www.env.go.jp/nature/intro/2outline/attention/hiari.html

 

文献:

Ascunce, MS. et al. 2011. Global invasion history of the fire ant Solenopsis invicta. Science 331: 1066-1068. DOI: 10.1126/science.1198734

Koike, F. and Morimoto, N. 2018. Supervised forecasting of the range expansion of novel non-indigenous organisms: alien pest organisms and the 2009 H1N1 flu pandemic. Global Ecology and Biogeography. DOI: 10.1111/geb.12754PDF

Korzukhin, MD. 2001. Modeling Temperature-Dependent Range Limits for the Fire Ant Solenopsis invicta (Hymenoptera: Formicidae) in the United States. Environmental Entomology 30: 645-655.

 

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