研究テーマのみつけかた
- まず研究対象(たとえばブナ林)を良く見る.良く見るための手段として,毎木調査や植生調査などの記載的な調査を行ってみることも良くある.
- 何かテーマを思いついたら,つまらないテーマでも良いので,すぐにメモ帳にメモしておく.他の人がやっていないことを考えるよう心がける.
- 簡単な調査を行ってみて,当たりをつける.
- そのような研究に役立ちそうな情報がないか,本や論文を読むときに注意しておく.どの論文が関係しそうなのか,というインスピレーションや視野の広さも重要な能力である.
- フィールドと文献を行ったり来たりしているうちに,自然に対する自分のイメージができあがってくる.自分なりの自然のイメージと,文献などで得られた自然のイメージに差があれば,この差にあたる部分が非常に重要な研究テーマになる.
- このように,いろいろなテーマについて試行錯誤を行った結果をゼミや学会で紹介し,みんなの意見を聞く.みんなの評価からも,ある程度客観的な重要性の価値判断ができる.
- おもしろい結果が出て,人々の自然の理解(あるいは保全のための自然のイメージ)を更新できるようなテーマがあれば,これを修士論文や博士論文にする. 自分がその研究をやった場合と,やらなかった場合とを比較して,人々の理解の違いが最大になるような研究テーマを選ぶ.(自分の貢献が最大になるテーマ)
- 研究の価値の7割くらいは研究テーマで決まる.
- 実際には良い研究テーマはどこにでもたくさんある.みなが新しいテーマを避けているだけ.
注意:
- 思いついた研究テーマがうまく行く確率は3割あればよいほうで,良いテーマを思いつくには,普段から常に心にとめながら,最低で1年から2年くらいはかかる.
- フィールドで得た自分なりの自然のイメージと,文献などで得られる自然のイメージの違いを研究して行くと,これが世界の研究方向とも一致していることが多い.そのためには最新の研究動向も知る必要がある.
- 論文を読んでテーマを探すのでなく,フィールドで探すこと.論文にはわかったことしか書いてないので論文で探そうとすると「わかったことであって,まだわかってないこと」という非常に難しいものを探すことになってしまう.たまに「〜を研究すべきだ」ということを書いてある論文もあるが,まともに受けると書き手の研究の方向に吸い寄せられてしまって自分の独自性を確保できなくなる.
- 修士課程から博士課程にはいるときなど次のステップの新しい研究計画をたてるときには研究テーマにも新らしい展開が必要になるが,自分が取り組んできたテーマの近傍の問題は,とても重要であると過大評価しがちである.このようなバイアスがあらかじめかかっていることを意識し,補正して客観的に研究方向を見極めるよう心がける.
- 皆が同じようなことをやっていて競争の激しい研究テーマは,早晩だれかが成功するようであれば,たとえ自分が最初に成功して先取権と名誉を得たとしても,人類にとっては大した貢献をしていない.むしろ研究資源の無駄づかいである.
- ライバル意識を持つと,相手の研究の方向に吸い寄せられてしまうので,持ってはいけない.ひとりで高いレベルをめざすこと.
- 研究者には,自分で新しい価値観(研究分野)を作るひと(クリエイター),新しい方向性の研究をひとりで見たときに価値を評価できるひと(1次ミーハー),皆が走るのを見て自分も走るひと(2次ミーハー),などがいる.最低限でも1次ミーハー以上でないとプロとは言えない.
- 社会に対する広い視野を持つ.基礎研究をやっていても新聞は3紙くらい読むこと.
- 研究は自分のために行うものでなく,皆のために行うもの.
データの取り方:
- まずデータを取りながら野外で考えたり,とりあえずの結果をまとめてみたりしながら,試行錯誤して次のデータの取り方を考える.はじめから決めたとおりにデータを取って完成するような研究はほとんどない.(それができるのは報告書)
- 研究には「決まったデータの取りかた」はない.研究目的に応じて他の人とは違ったデータを取ることになる.
- 全数調査でなく統計的な抽出を行うことも多いが,恣意的になったり結果がゆがんだりすることなく,かつ労力的にむだのない抽出手順を工夫する.
- これまで誰も取っていなかったデータを取るときは「こんないいかげんな研究で良いのか?」と不安になる(はじめて動物行動学のデータを定量的に取ろうとしたひとを私は尊敬する).逆に他人がたくさん取っているようなデータを取っていると「自分はちゃんとしたまともな研究をしているのだ」という安心感が得られるが,出来上がった研究はつまらないものになる. 新しいことをする不安感にうちかつには心のエネルギーが必要.この勇気がなければ研究者は無理.
- 大胆なテーマ設定と,データの収集手順の細心な設計との両方が必要.
小池文人
横浜国立大学大学院 環境情報研究院
自然環境と情報研究部門
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