木登り(素登り)の一例


1998.8.19
森林総合研究所東北支所 育林技術研究室
関  剛


 ひとそれぞれで骨の形や手足の強さが違うように、木登りのやり方もひとさまざまです。
 手足を道具にして木に登る方法は何かと疲れますし、登る高さや本数にも限界がありますが、覚えておくのに損はないと思います。さまざまな道具を使った木登りをしているときにも、もしトラブルがあった場合には手足を使って体を支えることは最低限必要になるでしょう。
 私が手足を主な道具にして木に登るときは、手や肩にばかり負担がかからないようにすることと、木にできるだけ負担がかからないようにすることに気をつけているつもりです。もちろんこれが必ずしもベストとはいえませんので、気付いた点などがありましたら指摘してくださると幸いです。なお、この方法を実際に使ってみて不都合な点、事故などが起きた場合には責任は取れませんので、あくまで「木登りの一例」としてご活用ください。



写真1
 登る前の頭と手。胸を幹に押しつけるようにしています。細い木の場合、両手を幹の後ろまで回して抱きしめることもあります。幹がすべりやすい樹種では両手を幹の後ろで結び、両腕で幹をはさみ込むようにします。








写真2
 登る前の片足。右足の甲を幹に押しつけています。

写真3
 登り始め。ここでは、右足の甲を幹に押しつけています。左足は逆に幹の後ろまで回して引きつけています。両方の足で幹をはさみ込んで体を支えています。足の力で体を支えるくらいの気持ちでいます。
 ここでは右手を幹の後ろに回して、左手を手前にしていますが、手と足の前後関係には特にきまりはありません。








写真4
 上に体を伸ばしています。手や腕はしっかりと幹をつかんでいますが、この時も両足で幹をはさみ込んで体を支えています。

写真5
 下半身を上に運んだところです。ここでは一気に下半身を引き上げました。引き上げるときには一瞬上半身で体を支えることになりますが、腕・肩への負担を和らげるように胸を幹に押しつけるようにします。
 写真は引き上げた直後で、引き上げたらできるだけ両足で幹をはさんで、腕・肩に負担がかかる時間が短くなるようにします。








写真6
 木の上でとどまるためにロープを幹に巻いています。ここでは、腰にハーネスを巻いていますが、ハーネスにつけたカラビナにそのロープを取り付けています。









写真7
 木から降りるところです。基本的には登るときと同じように、幹を両足ではさみ込み、体を幹に押しつけるようにします(後ろの山は岩手山)。









写真8
 木登りに使っている長靴の底を写しています。向かって左の人物の長靴の底はつるつるにしていますが、これは幹や枝に傷をつけにくくするためです。のこぎりのような刃のカッターを用いて底を削りました。通常の長靴の場合、「かかと」の部分の前後が要注意です。樹皮が薄い種類の木では、特に盛んに太っている期間に樹皮が削れやすくなります。何度も同じ木に登るときは長靴の耐久性よりは木の「健康」を考えたほうがいいと思います。









 この登り方は、しばらく山道を歩いた後でちょっと疲れた脚でも登ることができるのを目指しています。どちらかというと、ナメクジのようなゆっくりとした(素速いナメクジも世の中にはいるかもしれませんが)登りで体力の消耗を押さえようとするものです。腕力・握力や脚の筋肉を鍛えておくのも大切ですが、そこそこに腹筋を鍛えておくとよいかと思います。もっと楽で確実な方法があれば、ご連絡いただけると幸いです。