ロープ・システムを使ったセンサーやトラップ,カメラの設置
ヒトが林冠に到達するには100kg程度の重量を安全に支えることが必要で,大掛かりな設備が必要になる.しかし,気象センサーやカメラ類,昆虫などのトラップを設置するのであれば,ヒトが行くのよりもはるかに簡単な設備ですむため,アプローチできる空間も広くなる. ここでは,ロープを張ってセンサーなどを操作する方法を紹介する.
1.ひとつのセンサーを移動させるシステム
全天写真の撮影や,ビデオカメラで昆虫の訪花や鳥の果実食のようすを観察する場合などにも使用できると思われる.林業の架線集材のシステムに似ているが,葉群の中を上下するためタイラー法のような複雑なシステムは使えない.両端を樹木に固定するのでなくタワーなどを使えば,林冠より上の空間を調べることもできる.
A:重さを支えるメインロープ,BとC:左右の位置決めのためのロープ,D:キャリヤ,E:カメラの高さを決めるロープ,F:カメラ,G:高さを測る巻尺(引きおろしにも使用),H:カメラのレリーズ.(Koike & Syahbuddin 1993. Canopy structure of a tropical rain forest and the nature of an unstratifies upper layer. Functional Ecology 7: 230-235)
<設置方法>
- Tree1に登り,Tree2に向かってラインを撃つ.弓はふつうのアーチェリーでも良いが,クロスボウ(ボウガン)に魚釣りのリールをつけ,矢の先端には単四アルカリ乾電池を2本,おもりとしてビニールテープなどで着けておくと良いかもしれない.
- Tree1にラインAとBを取り付け,両者の端をTree2に向かうラインに結ぶ.A,Bいずれも地上から自由に伸ばせるようにし,Tree1の上では小型のカラビナでラインを流すようにする.
- Tree2に登り,弓で打ったラインを引く.ラインAとBが近づいてくる.AとBのねじれをとる.
- ラインAにキャリヤDを取り付け,Aの端をTree2に固定する.
- ラインBとC,Eをキャリヤに取り付ける.
- ラインEにはセンサの代わりに錘をつけて地上に下ろす.
- 樹上でラインが流れるところはカラビナなどを通す.
- ラインAを十分に張った状態でTree1側を固定する.登らなくても地上で固定しても良い.
- センサを移動させるためには,設置後にラインAの下に空間ができている必要がある.
<操作方法>
- ラインEのセンサ側の端に,センサの代わりに錘をつける.錘は5kg程度はあったほうが良いかもしれない.
- ラインEの操作端を引いて,キャリヤDの高さまで錘を上げる.
- ラインEの操作端とラインCを同時に少し緩める.たくさん緩めると錘が葉群にからんでしまうので,たとえば2mくらいずつ緩める..
- Tree1側からラインBを引いて寄せる.
- 3番と4番を繰り返して少しずつ横に移動させる.
- ラインCやBの出かたからセンサの水平位置を読み取り,適当な位置に達したらラインB,Cの操作端を固定する.
- ラインEを緩めて錘を地上に下ろす.
- 錘をセンサに付け替え,かわりに巻尺Gをつける.
- ラインEを引いてセンサを必要な高さまで上げる.
- 測定を行う.水平位置は錘の降りた位置,高さはメジャーの位置としてセンサの空間位置を記録する.
- 測定が終わったらセンサを下げ,錘と交換する.
2.多くのセンサーをいちどに設置するシステム
トラップを使って昆虫の空間的な分布をいちどに調べたり,微気象の空間的な分布の測定などに使用できる.すだれのように下がったラインに目印を取り付ければ,林冠の垂直断面のうえに四角い調査プロットを作ることができる.前記のものと同様に,両端を樹木に固定するのでなくタワーなどを使えば,林冠より上の空間を調べることもできる.
Koike 1994. Structure and light environment in the forest canopy of Lambir Hills National Park, Sarawak.In T.Inoue & A.Hamid eds, Plant reproductive systems and animal seasonal dynamics Long-term study of dipterocarp forests in Sarawak. Center for Ecological Research, Kyoto University から引用.
<設置方法>
- Towerに登り,Treeに向かってラインを撃つ.
- 撃ったラインの端にメインロープとリングロープ(リングにするために2重にしておく)の計3本を結びつける.
- Treeに登って撃たれたラインを引く.メインロープとリングロープが近づいてくる.それぞれのロープのねじれをとる.
- メインロープをTreeに固定する(上図では回収を簡単にするために下まで下ろしてある).
- リングロ−プのTree側を,カラビナを通すようにして設置する.
- Towerに登り,リングロープを設置する.
- リングロープに魚釣りの「より戻し」の大きめのものを一定間隔につける.リングロープをまわして,上下用ライン1の「より戻し」がTowerに来るようにしておく.
- ライン1をより戻しに通し,錘として単1アルカリ乾電池を1個程度つけておく.
- リングロープとライン1をTreeに向かって送り出す.ライン1の錘は常に余裕を持って下がっているようにする.
- 同様にライン2,ライン3に錘をつけて,リングロープで送り出す.
- 所定の水平位置に達したら,リングロープを固定する.
- 各ラインの錘を地上まで下げる.
- 上記の方法はTower2回とTree1回の計3回木登りをしているが,はじめにTree側に登ってラインを撃ちリングロープの処置をうまくすれば,2回の木登りだけでも設置できる.
<操作方法>
一定間隔にトラップなどを固定したロープを作っておき,タワーの下で上下用ラインを引くことによって所定の高さにあげる.
横浜国立大学 大学院環境情報学府
小池文人(koikef@ynu.ac.jp)